第2話 プロローグ2 TS美少女、遠藤光です☆
連休明け。
現在、校舎の廊下を歩き教室に向かう。
連休明け、TS後初登校だ。
周りには誰もいない、まあ遅れて来いと担任に言われたからな。
教室、の引き戸の前で停止、一旦深呼吸…よし行くか。
一気に扉を開けて中に入る、視線が突き刺さる、いつもの連中のいつもと違う視線。
俺は少し歩いて止まり。
「どうも、TS美少女、遠藤光です☆」
空気が凍る、そしてしばらくして誰かが呟く。
「…間違いねぇな、このふざけた態度、遠藤だな」
「うん、遠藤君だね」
「「「「「だな(だね)」」」」」
「いや普通に酷くて草」
「ほら、光だよ、ネットスラングを現実で使う奴なんて光しかいないよ」
ああ?魔法ぶっ放してやろうか、あ、そういえば俺ただTSしただけの無能力者だった。無念。
そうして頭を抱える担任とにわか騒がしくなった教室のを尻目に自分の席へ向かう。
…ふう、ひと段落。
「光っち、まじで女の子になってる~、というかめっちゃ可愛い~」
前の席の女が振り返り話しかけてくる。
名前は小鳥夕、まあ腐れ縁てきとう
「光、ほんとに女の子に…」
そして後ろの席の男も話しかけてくる、こっちも腐れ縁てきとう、工藤春樹だ。
「どうだ、すごいだろう」
「えっと…なにが?」
「この思わせぶりなオッドアイ、特に意味はないらしいぜ」
「光っち、ウケる」
「なんというか…君らしいというか」
…あれ、俺、平々凡々な人間だ思っていたのに…意味もなく女になっても「まぁ、あいつだし」で流されるような変な奴だったの?
「いや、草」
「…うん、やっぱり光だ」
「あれが…遠藤?」
「嘘だろあの美少女が…遠藤」
「普通にギャグだろ」
「…いい」
「…ん?今なんかやべぇ奴いなかったか」
休み時間、他のクラスの奴らが来て好き勝手言っている。
…なんか少し寒気がしたような…風邪でも引いたか?
「でも、魔法少女に魔女かぁ…あまり現実感ないな」
「だね~」
「まぁ、ここら辺ではあんま縁がないからな」
何故かこの地方はそれらとほぼ無縁だ。奇病というか風土病なのかってくらい発生点が偏ってるからなぁ…。
「いや、一応当事者の光が何を言ってるんだい?」
「俺はただ女になっただけの一般人だから」
「ウケる~」
うん、改めて考えてもただのギャグでは?
「まあでも、魔女と戦わなくていいし、これで済んでよかったぜ」
「…そうだね」
なんせ、魔女との戦いでの死傷率は、WW1の西部戦線より高い、と揶揄されるほど危険なものなのだから。
実際に遠くのとある都市が壊滅したなんて事件も数年目にあった。
いくら尊敬されようとそんな仕事、ごめんだね。
「おーい、席に着けー」
「おっと授業の時間だ」
3時限目は数学…うわだる。
「お~い」
「む…」
「やっと起きたね」
「あれ…ここは?
「…学校の教室だよ」
なんだ、目が覚めたらよくわからない空間にいたとかそういうのはなかったか
「大丈夫~?やっぱ不調?」
小鳥が心配そうこちらをのぞき込んでくる。
いかん、無用に友人を心配されるのは…よくないなー。
「いや、大丈夫、単なる寝不足ってだけだ」
「そう~?なら帰ろ~?」
「あれ、春樹は」
「…なんか~用事があるって先に~」
「なんだ、そりゃ…じゃあ俺たちも帰るか」
「そだね~じゃあ私はかわいい、かわいい、光っちの護衛かな~」
「ふっ、この俺、推定無能力魔法少女を舐めるなよ…びっくりするほど何もできんぞ」
「ウケる~」
そんなことを言い合いながら、俺たちは教室を出て帰路に就く。
私は小鳥夕、まあ普通の高校生だ。
普段変な口調で話しているのは…昔の自分を隠すため。
昔、そう私は昔は…今とは全然違った。
俗にいう魔女化現象の発生により世間に暗い影が落ちていた当時。
数年前まではもっと頻繁に魔女化現象が発生していたのだ。
最初は少し、ほんの少しだけ、興奮した。
この無機質で、どこまでも無意味な世界に、何の意味も見いだせなかった当時の私の目の前に、突然現れた超常現象だから当たり前だ。
しかし、次第にその実態が分かるにつれて失望していった、魔女化現象も結局は無機質でただひたすら残酷な世界の一部。
それから私は空想の世界に入り込んだ。難しい本は当時はまだ理解できなかったから、わかりやすいライトノベルから…それをあらかた読みつくす頃にはWEB小説に。
そこには…様々な考えを持つ人たちが創造したそれぞれの物語があった。
テンプレートだろうと、世間に小ばかにされようと、私はそれがとても魅力的だった。
私もこんな壮大な冒険がしてみたい…そう思った。
そうしていつの間にか中学生になっていた。
そろそろ、難しい本も読めそうだし、私が読んできた物語の原典を…。
そう、教室で一人で考えていた時。
「お、それ面白いよね」
「…はい?」
「特にその場面、マジで草生えるよね」
「は、はぁ」
突然私の読むweb小説原作の単行本の雑な感想を言う男の子。
彼との…遠藤光との初めての会話。
最初はこれで終わりかと思った。
しかし、そこからなぜか、遠藤光…光君と徐々に話すようになった。
そうすると誰もいなかった私の周りに人が集まるようになった。
いつの間にか空想に浸る時間はほとんどなくなっていた。
人と積極的に関わることがこんなに楽しく、冒険に満ちたものだとは知らなかった。
どうやらこの世界が無機質だというのは、幼稚な思い込みだったようだ。
中でも光君と話すのは特別楽しい、いつも胸が高鳴る。
そして…時が経ち、高校生になり…気が付く、私は…彼のことが…。
…そんな彼が何故か突然、昔読んでいたラノベに出てきそうな美少女になっていた。
正直心底びっくりした…けど、びっくりしただけだ。
彼らしいと思った。
相変わらず彼と言葉を交わすだけで胸が高鳴る。
彼の姿形が変わろうと彼の本質は変わらない。
そして私はその彼の本質が…大好きなの。
だから、今日…思いを伝えることにした。
これからどうなるかなんて考えない。彼の体が女の子になったことなんてどうだっていい。
ただ、伝えたいから伝える。
それだけ。
工藤君には先に帰ってもらった、彼は察しがいい、きっと気が付いている。
「おーい?夕、ここ行き止まりだけど、迷子?なら草生え」
私は立ち止まる、そして光君と向かい合う」
「ね~、光君」
「…なんだ」
とんでもない美少女だから…怪訝な表情も様になっているね光君。
「私ね、ずっとね」
「…おう」
そう、ずっと、今までずっと…
ずっと、光君を…ずっと。
心臓がすごい勢いで跳ねている。
落ち着け、さあ、言うのよ、小鳥夕。
「…ずっと、ずっと…人類」
「…は?」
あれ私今なんて?
心臓がすごい勢いで…いや、これは明らかにおかしい、おかしい!
すると突然、私の頭の中のある感情が大きく、膨張して。
その感情は…殺意。
人類に対する殺意。
殺意、殺意、殺意
「おい!夕!どうした、夕!」
―暗黒魔術「終焉」獲得―
殺意に意識が飲み込まれる最後の瞬間、私すべてを察して、思った。
やっぱりこの世界は無機質で無意味だと。
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