第1章 1-5 出会い
ある日、いつものように『偉大なる獅子達の行進』を近くの椅子に座って観ているアマンドの前に、一人の老人が近づいてきた。
「君はこの絵が好きかね?」
アマンドは急に話しかけられため、少し驚きつつも答えた。
「はい。」
その老人はさも懐かしそうにアマンドを見ながらこう言った。
「よかったら、少し話さないか。」
アマンドは少し戸惑ったがうなずき、老人はその隣の椅子へと腰かけた。
「ああ、やっぱり良い。この作者を知っているかね?」
アマンドは首を振った。
「プリームスアルスだよ。」
「プリームスアルス?」
「アルスの頂点だよ。」
「アルス……アルスとは何ですか?」
「アルスも知らんで、ここに来ているとは恐れ入った」
老人は少し思案しているようで、数分沈黙が流れたが、ゆっくりと話だした。
「アルスとは、美の専門家のことを言うんだ。この世界には絵画、彫像、工芸、文章表現、動画などといった様々なアートがある。それらに、大いなる価値があることは、君も知っているだろう?」
アマンドは深くうなずいた。
「その芸術を生み出す者たちを『アルス』と称しているわけさ。」
「そうなんですね。」
「そして。改めて言うが、その頂点にある者が『プリームスアルス』なんだ。」
そのあともふたりはその絵をずっと眺めていた。ふと、老人が呟くようにこう言った。
「アルスにならないか?」
「アルス?」
「そう。アルスだ。」
「僕が、美の専門家に?」
「君のこの作品に魅入っている姿を観ればわかる君には才能がある。……まずは私と一緒に来てくれないか?」
アマンドは怪訝に思いながら、老人についていった。老人は様々な彫刻が並んでいるスペースに行くと、くるりとアマンドに向き直った。
「あいさつが遅くなったね。私の名前はリッチャー。リッチャー・ダマメント。この館の館長をしている者だ。」
「僕の名前はアマンド」
「そうかアマンド君。では君にここでクイズだ。」
そう言うとリッチャーは、そのスペースに飾られている彫刻をそれぞれ見ながらこう言った。
「先ほど椅子に腰かけながら見た作品の作者の彫刻作品がある。それを見つけ出してほしい。」
「彫刻作品……。今までここの美術館に来たことはありますが、彫刻作品を観るのは初めてです。」
「だからこそのクイズなんだ。気軽に答えてみてくれ。」
アマンドは、周囲に鎮座する彫刻作品を眺めた。数十分はたった。彼はいぶかしそうにリッチャーを見てこういった。
「……すみません。この中にそのような作品は無いですよね?」
「そうとも!正解だ!なぜわかったんだい?」
「……具体的な理由はありません。……ただ………。」
「ただ?」
「ワクワクしなかった……。」
「ワクワクしなかった!?こりゃあ傑作だ!」
リッチャーは笑い、アマンドに向き直って改めて言った。
「アルスになってくれ。」
「でも僕には仕事もあるし、そもそも自信がないです。今までそういうアート?のようなものを観てはいましたが、作ったことがないので。」
「確かに、それで不安に思うことはもっともなことだ。しかし、こういうところがあるんだよ。」
リッチャーは、懐から一枚の紙を取り出しアマンドに見せた。
「UC?」
「そうUC、古代語のUniversityとCollegeの頭文字を取ってUCと呼ぶんだ。アルスの養成機関だよ。」
「そういうところがあるんですね。」
「そうだ。ここだとアルスに成れるだけでなく、賃金も出る。先行投資のようなものさ。……まあ、まずは君の気持ち次第だ。」
「……」
「少し考えておいてくれたまえ。また会った時にでも返事を聞かせてくれ。」
そう言うとリッチャーは去っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます