喫茶店の木の匂い
噂のはちみつ
第1話 夜
「コーヒーを1つ、ホットでお願いします。」
従業員を含めて人は少なく、静まり返ったこの喫茶店。木の匂いがするカウンターの上にノートパソコンを開いた。今日も今日とて出張残業か。終わらなそうだし、後輩にぶん投げておけば良かったな。
不安そうにため息を吐いたのと同時に、注文したコーヒーがノートパソコンの右隣に肩を並べていた。
雨が降っている。さっき家を出た頃は晴れてたのに、いきなり大粒の雨が降り出して、慌ててこの店に駆け込んだ。その途端に雨音は次第に小さくなり、今はもう霧雨程度になっていた。外はよく見えず、代わりに窓に打ちつけた後の雨がゆっくりと下へ消えているのが見れた。
濡れたジーンズを温めるようにコーヒーを飲む。体が徐々に体温を取り戻しているのが分かる。けど、ジーンズは乾くどころか、余計に寒さを感じ始めるようになった。
普段ならもう帰っている頃だが、まだ雨が降っている。いつまた大粒になるか分からないのに帰るなんてことはできない。もうしばらく、ここで残業でもしていよう。そのうち止むだろう。
…喫茶店の木の匂いが戻ってきて鼻につき、開いたままのパソコンのブルーライトがやけに眩しくて、そのおかげで目が覚めた。さっきと同じ席に座ったまま、寝てしまったようだった。あれからどれぐらい寝たかは分からない。けど、1つだけ確かなことが分かっている。
今は夜中だ。当然、この店は閉まっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます