「第五話」金の扉

──画面揺れやっば

──止まるんじゃねぇぞ……!

──初配信でこんなミラクルあり得る?


心配するコメント、怒涛の展開を期待するコメント。どちらにせよコメント欄は異常なほどの盛り上がりを見せており、視聴者数はいつの間にか50人を超えていた。しかし、今のボクにそれを喜ぶだけの余裕はない。


心臓が五月蝿い。

読み上げられたコメントに反応することも、カメラの照準を気にすることも容易ではない。

ただ、ボクは1000円ちょっとのサバイバルナイフを握りしめ……段々と強くなっていく揺れを踏みしめていた。


そしてボクは、禍々しい扉の前に辿り着いた。


「き、金の扉……!?」


──やっば

──金の扉って、グリフォンとかスフィンクスがいるような扉だよね?

──クソ強いパーティーでも倒せないようなモンスターがこの先にいるのか……


読み上げられるコメントが耳に入るたびに、ボクの足が震えていく。グリフォン、スフィンクス……そう、歴戦のダンジョン配信者をことごとくねじ伏せ、生配信での惨劇を作り上げてきた手強いモンスター。魔法で鍛えられた武器でようやく刃が立つような相手だ、私が持っているサバイバルナイフなどおもちゃに等しい。


逃げるなら、間違いなく今だ。

そもそも初配信でそこまでする必要はない。死んでしまえば元も子もない……自分は父親のように強い存在との契約を結んでいるわけでも、経験豊富なわけでもない。


「み、皆さん」


でも。


「これからボクは、この金の扉の中に突撃したいと思います! コメント欄の皆さんの助けだけが頼りです。どうか……どうかボクに力を貸してください!」


──当たり前だよなぁ!?

──頑張れ!

──「バーサーカーさんが投げ銭しました《5000円》」やっちゃいなよ! そんな高い壁なんか!


コメント欄の熱気は高まり続け、「見られている」という事実を直に感じる。深呼吸、深呼吸……意を決し、ボクは金の扉に手を添えた。


(見ててお父さん。これがボクの……ダンジョン配信だ!)


開け放つ扉、その瞬間に全身にぶち当たる爆風。

視界が塞がれ、ボクは思わず両手で顔面を覆った。耐える、耐える……そして風が収まったと同時に、恐る恐る目を開けた。


そこには、巨大なモンスターと対峙する少女が一人。

上がり続けるコメント欄の熱気、何度か耳に入るその名を、ボクは知っていた。


「服部、ナオトラ……!?」


それは紛れもない、現世界最強との呼び声高い超有名ダンジョン配信者であった。

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