「第二話」家出
「た、ただいま〜!」
さてボクよ、ここで必要なのは堂々としていることだ。下手に隠したりオドオドしていると怪しまれてしまう……ここはあくまで自然に、何の隠し事もないように振る舞うのだ。さもなければ君は母上の怒りを買うことになってしまう……そうなれば、ああ、アーメン。
「おかえり、遅かったけど何してたの?」
「ひうっ! たっ、ただいまぁ!」
つい情けない声が出てしまい焦った、だからごまかすために、ボクは思いっきり年甲斐もなく母親に抱きついてしまった。──やってから、不味いと思った。もう遅いけど。
「えっ!? ど、どうしたのよ」
「いやぁそのね! ボク久しぶりにお母さんに甘えたいなーって思ってその……ママァー!」
心にもないことを言ったなぁと思う。案の定、お母さんはボクを引き剥がし、訝しげな目で顔を近づけてきた。
「……何か隠してるでしょ」
「ほ、ほんとかなぁ〜!?」
誤魔化そうとするボクの肩を、お母さんは強く掴んだ。
「まさかあなた、配信者試験になんて行ってないでしょうね?」
「……」
「答えなさい、蒼井」
ここまで来たら、もう駄目だ。ボクは大きくため息を付き、目を逸らしながら白状した。
「うん、行ったよ。合格した」
「──なんてことを……」
今にも殴りかかってくるのではないかと思うほど、母は顔をクシャクシャにしていた。でもそれは単なる怒りだけではなく、悲しみや漠然とした不安にかられているような気もする。……その気持ちも、私は分からないわけじゃない。
だけど。
「ねぇ、お母さん。ボクはダンジョン配信者になりたい。お父さんみたいに強くて優しくて、いつか魔王を倒すような……人気者になりたいの」
「人気者? 何を馬鹿なことを言ってるの! そんなことのために命を賭けるなんて、お母さんは絶対に許しません!」
「違うの、ボク、本当は……」
握りしめた拳。ボクは、本当の理由を吐き出した。
「お父さんを、助けてあげたいの」
お母さんは、今までで一番悲しい顔をした。そして何をすればいいかわからないと行った顔で涙を浮かべ、ボクを優しく抱きしめてきた。
「お父さんはね、もういないの。あのダンジョンの中で、あの日……死んじゃったの」
「……ッ! 嘘だっ! お父さんは死んでない!」
お母さんを突き飛ばしてから、ボクは罪悪感に襲われた。地面に横たわったまま私を見るその目が、なんとも悲しげで見ていられなかった。ボクは家を飛び出した、靴を乱暴に足にはめて、来た道を戻るかのように、家を飛び出した。
「待って!」
懇願するような母の声を置き去りにして、ボクは家を走り出していた。
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