第52話その1回に自分の人生の全てをかけます。

レイモンドの部屋に連れて行かれベットに降ろされる。

突然、経験したことのない大人の口づけをされて驚きのあまり硬直した。

私は先程軽くした口づけでさえ本当は結婚式の日までとっておこうと思っていたのだ。

でも、魅了の力が消えた喜びのあまり唇に口づけをしてしまった。


「待ってください、レイモンド。そのような口づけは結婚式の夜までしてはいけないことになっています。」

私は必死に彼の胸を押して抵抗する。

「心が通じ合ったので今からエレノアを抱こうと思っていのですが、そちらもダメでしょうか?」

彼は一体何を言っているのだろうか、婚前交渉など私がするわけがない。


「絶対ダメに決まってますよね。どうして良いなんて思っているのですか?離婚の理由の一位は価値観の不一致と言われています。私たち結婚する前から価値観が合わなすぎですね。戸籍にキズがつく前に結婚をやめましょうか。」

私が怒りに耐えているのが分かったのか、彼は大人しく話を聞いている。


よく考えれば、彼は私の8歳も年上の体格の良い大人の男だ。

なんだか、しっかりと話を聞けるところがとても可愛いと思ってしまった。


「すみません。エレノアのダメだということはしませんので結婚したいです。でも、実際、今のサム国の状態でいつ結婚できるかわからないですよ。エレノアはそれでも良いのですか?」


彼はまた性欲に脳を侵されはじめたようだ。

別に私は今すぐ彼に抱かれたいなどと、これっぽちも思っていない。

自分が今すぐ私を抱きたいから、私もそうだよねと同意を求めている彼は相変わらずだ。


「別にそんなものは全くなくても良いと思っています。そんなことばかり考えているならば、そういうことをするのは結婚式の夜の1回だけとします。」

レイモンドの能力を最大限に生かすには、彼の脳を常にクリアーな状態に保たねばならない。


「エレノア、1回では子供はできませんよ。私はエレノアと結婚したら1週間は寝室に篭る予定です。」

やはり彼はいつだって正直だった。

自分の気持ちを正直言いすぎて彼の言葉にはいつも引いてしまう。


そして1週間も寝室に篭るような人間がいるのだろうか。

私も一緒にいなければいけないとしたら、監禁と変わらない気がする。


「あなたの立場でよくそんな無責任なことが言えますね。1週間も上の者が不在だという事態が許されるとでも思っているのですか?レイモンドが子供を好きだとは初耳です。私はてっきりあなたが好きなのは子作りだと思っていました。あなたは優秀なのに性欲に囚われると集中力が欠けてしまします。だから、結婚式の夜1回だけしかそういうことはしません。」


せっかく帝国からも彼の高い能力が認められているのだ。

ここでまた性欲モンスターの彼に戻っては、サム国が帝国領になった時に領主になれなくなる。


「わかりました、エレノア。私はその1回に自分の人生の全てをかけます。」

ものすごい精悍な顔つきで決意表明しているが、自分の言っていることがおかしいとは全く思わないところが彼らしい。


「レイモンドが人生をかけるべきはサム国の民に対してですよ。どちらにしても国王陛下がサム国を帝国に譲らない姿勢を変えないので、もう帝国の武力侵略か、クーデタ待ち状態になっている気がします。正直、アラン皇帝陛下がサム国だけを諦めるとは到底思えません。国であることにこだわるよりも、いち早く帝国領になり豊かの領地経営をすることを目指す方が重要だと思います。」


世界でサム国だけが、帝国の領土になっていない状態が2年近くも続いている。

見せつけるようにサム国の周りの領地に多めに資金を投入し、インフラを整え領地を発展させている。


サム国が最高だと思っていた民の感情を揺さぶりまくっているのだ。

おそらく犠牲者を出す武力侵略はできれば避けたいのだろう。


「早く結婚式がしたいので、国王陛下に王位を譲るように言ってきます。その後速やかに帝国に国を明け渡すので、エレノアはそれまでこの部屋でゴロゴロしていてください。」

そう言い残すと反逆の王太子レイモンドは自国を帝国に明け渡すべく、国王陛下の元に向かっていった。

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