再悔

ざぶーん

少年Z

 最後の学校行事から帰ってきた私は貰い物を仕舞いながら汗を拭いた。青春の霧吹きは最後の日だというのにきり悪く残っている。一番お洒落な私服に着替えたら急に制服に申し訳ない気持ちになったから心の中でありがとうと言った。崩れた髪型をセットし直していると、クラス写真や部活のメンバーの写真などが次々LINEに送られてきた。それぞれに違う感謝のスタンプを送る。同じスタンプを送っても受け取る側は関係ないのだがそれだと自分が気持ち悪い。妙なところでマメだと思う。リュックをショルダーバッグに持ち替えて打ち上げへと向かう。今日二回目の扉はとても軽い。


 待ち合わせ場所までは自転車で行く。今日の暑さと距離を考えれば妥当だ。桜の花びらを踏んづけながら快調に飛ばす。卒業式まで踏ん張ってほしかったものだ。

 頭の中で次々と話題が入れ替わっていく。俺はさっきの写真撮影の時に盛り上がった話を思い出した。


「十年くらい経ったらなんか集まろうや。みんなどんな大人になってるか気になるし」

 クラスの誰かが卒業証書の筒を鳴らしながらそう言った。

「十年後なんて何してるやろ。想像できんな」

「財前は賢いし、医者とかなってんのかな、それか会社の社長とか?」

「プレッシャーかけんなよー。これでショボかったらダサいやんー」

 中学校での三年間は驚くほどに順風満帆で自分でも怖いくらいだ。第一志望の高校も自己採点で過去数年のボーダーラインを優に超えている。何にも逃げずに頑張ってきたからだろう。なんだか誇らしくなった俺はギアを軽くしてずんずんと坂を上がっていく。


「久しぶりに会ったら意外な奴が綺麗になってたりするよな」

 調子のいい奴が言っていた。学校で暫定的に出来たリストを頭に思い浮かべる。今日で意味を失う出席番号を頭でもう一度なぞると、新たに二、三人が追加された。普通に失礼な話だが、"伸びしろがある人"と言い換えれば立派な誉め言葉だ。それに女子だって集まってコソコソ話してたしお互い様だろう。何より皆が浮かれているのが可笑しくて楽しかった。

 

 思い出の場所で自転車を止めていたせいで、着いた時にはほぼ全員が到着していた。それぞれ仲いいグループで楽しそうに話している。高校に入ったらそれぞれ忙しくなるのだろう。だからこんな風に皆が揃うのは成人式か同窓会くらいだろう、なんて感傷に浸っていると大きなビルの間から夕焼けが顔を覗かせた。太陽まで祝福しているのかと驚いた、と同時に浮かれているのは自分も同じだと気づいた。でもそれが心地よかった。

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