第17話 ダンジョンへの旅立ち
さて、明日はかねてより契約をしていたダンジョン探索への出発日だ。午前中はギルドに顔を出し、互いに念押しをする。
帰りには早めの昼食を、友人であるサオラティーが経営する小さなレストランでとる。この店には遠出をする際、必ず訪れるようにしている。まぁ、一つのジンクスと言っても良い。最初は分からなかったのだが、日記を読み見返す内にある事に気が付いたからである。
それはこのレストランに立ち寄らずに遠出をすると、ある程度大きなトラブルに巻き込まれるという事実であった。もちろん100パーセントそういうわけではないのだが、かなりの高確率でこのジンクスは成立しているように思える。
ボクのような冒険者は多かれ少なかれ危険が付きまとう職業なので、迷信と分かっていても、ついゲンをかつぎたくなるものなのだ。それにこの店のドガウラうさぎのステーキはチョットお高いが絶品だしね。もっとも予算オーバーの食事をする言いわけに、ジンクスを利用しているだけなのかも知れないが。
舌もお腹も十分に満足したところで店をあとにして、どこにもよらずにさっさと帰宅する。余計な事をして明日に支障が出ては目も当てられない。
家に辿りつき少し休んだ後、翌日の準備の最終確認をする。肝心かなめの魔使具や着るものの予備、携帯用食料に忘れてならないギルドの会員証、その他もろもろ……。明日の朝になればこれらの品に圧縮魔法をかけて、ナップザックに詰め込み出発となる。
まぁ、今回の依頼は街に比較的近いダンジョンであり、しかもほぼ探索済みの迷宮である。そうそう危険があるとは思えない。だからこそ、新しく取りそろえた魔使具の良い慣らし運転にもなるだろう。持っていく魔使具には、既に十分な濃縮マジックエッセンスがチャージされている。実を言うと、これらの新しい魔使具を早く使いたくて、何日も前からウズウズしているのだ。
また複数のモバイラーにもたっぷりのマジックエッセンスを充填してあるし、明日の朝には留守中この家を守る防犯結界を張った後、持っていくものとは別に用意した中型のモバイラーから自分自身にマジックエッセンスをチャージする準備も出来ている。あとは明日が来るのを待つばかりの状態だ。
全ての準備が整ったのが、午後3時ころ。明日は早立ちとはいえ、就寝の時間にはまだかなりの間がある。依頼書の再確認などをするも時間を持て余してしまい、手持無沙汰で仕方がない。もっともここで余計な事をして明日に響いても困るので、読みかけの小説を片手にユルリと過ごす。
早めの夕食を取ってしばらくしたあとベッドに潜り込むが、新しい魔使具が試せる高揚感からかなかなか寝付けない。まるで遠足前の晩のようだ。だが当然ながら、既にそのような年齢でない事はわかっている。
こんなに胸が高鳴るのは、いつ以来であろうか。ボクはもうトンデモなく長い間生きてはいるが、心は未だに少年のままであるようだ。まぁ、こんな事を姉に言えば”あんたは、いい年をして本当に!”と、ゆうに三時間は説教されるんだろうな。
そんな事を考えている内に段々と睡魔が忍び寄り、夜のとばりの中、いつのまにか深い眠りについていた。
翌朝、気持ちよく目が覚めると本日の予定を確認する。クライアントのゼットツ州から事前に示された日程では、本日、当州へ移動、夕方から参加メンバーを一堂に集めて簡単なレクチャー、夜は宿泊施設近辺に限っての自由行動OKとなるとの事。
ボクは持参する荷物の最終確認の後、それらに圧縮魔法をかけてナップザックに詰め込んでいく。続いて据え置き型のタンクから、ローダーを使ってマジックエッセンスを体に充填。火の始末を確認した後、中型のモバイラーとローダーをもって、外に出た。
日程は一週間余りなので、中程度の防犯結界魔法を家屋と周辺にかける事とする。こんな森の中に来るモノ好きがそういるとは思えないが、万が一の事を考えて念入りに行った。
結界を張るのに使ってしまったマジックエッセンスを持ち出したモバイラーから体に補充し、それを木のウロに隠して一人用ビークルに乗りギルドへと向かう。
ギルドに到着した後は所定の書類へサインをして、クライアントが用意した乗り物がやってくるのを待つばかりだ。少し早めに家を出たおかげで、時間に割と余裕があった。こんなに朝早くギルドへ来るのは久しぶりだったので、長らく見ていなかった顔にも出会い近況を報告し合う。
ほどなくゼットツ州からの迎えが到着。同乗する役人と身分証を確認し合った後、ボクは中型のビークルに乗り込んでフワリと座席に腰を下ろした。うーん、これはなかなか高級な車輛だぞ。州の本気度が、うかがえるというものだ。現地は二つ隣の州なので、到着には半日以上かかる。
また隣の州でパーティーの一人を拾っていく予定であり、メンバーの中では初顔合わせとなる。どんな人物が乗り込んでくるのだろうか。気難しい奴でなければ良いが……。
昼過ぎに隣の州へ到着し、小休憩をとる事になった。ここで合流メンバーを待つ事となる。駐車場近くの定食屋で遅めの昼食を取り終えた後、ビークルへ戻ると既にメンバーの一人である男が車内で寛いでいた。
「リンシードさん、こちらが今回一緒にパーティーを組んでいただく”細工師”のザレドスさんです。こちらは、魔法使いのリンシードさん」
州政府から遣わされてきた背の高い役人が、双方を引き合わせる。
見たところホビットと人間の混血らしく、年の頃は四十過ぎといったところだろうか。年齢の割に老獪な印象を受ける。一見穏やかだが、侮れない人物であるようだ。お互いに軽く挨拶をし、それぞれの座席に戻る。
細工師とは文字通り様々な細工を得意とする職業である。自らが細工物を作ったりする場合も多いが、他者の仕掛けた細工を見破る能力に長けた者も多い。
そして彼らはダンジョン探索において、なくてはならない存在だ。ダンジョン内の仕掛けを発見したり無効化するのは勿論の事、宝箱の類を安全に解錠する技も持ち合わせている。更には、魔使具の簡単な修理さえ行えてしまうのだ。
昔はこの類の役割を”盗賊”が担っていたものなのだが、昨今、さすがに本来犯罪者である盗賊をパーティーに加える事は殆どない。それこそ非合法な冒険者のパーティーに、時たま盗賊崩れがいる程度である。
また細工師と盗賊の一番大きな違いは、戦闘力だ。盗賊の戦闘力もそれほど高いものではないが、細工師の場合は殆ど戦闘に参加しない。しかしだからといって、細工師が他のメンバーから蔑まれるような事はない。力押しで何とかなるフィールドは別にして、それ以外では細工師の力なくしては余計なダメージがドンドン蓄積されていく可能性があるし、全員が一発でお陀仏になるような罠も大抵の場合は見破ってくれる。
もっとも細工師のほうでも戦闘において皆に迷惑をかけないよう、自らを守る防御魔法やメンバーに掛ける支援魔法を身につけている者も多い。見たところザレドスが身につけているアクセサリーの幾つかには、それとわかるような魔使具もあった。
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