殺戮人形の苦悩 ~デウスエクスマキナ前日譚~
ヨッキー
第0話 プロローグ
プロローグ
近代的な大都市。
硬く、魔法防御性能にも優れている黒レンガで造られ、色鮮やかな漆喰で塗装された近代的な建築物の建ち並ぶ、美しい大都市だ。
そんな大都市の大部分が今では人のいない廃墟になっている。残りの人の住んでいる部分の大半も、行くところのない者や何もかもを失った者、そして犯罪者の巣窟になっていた。
とはいえ、都市にいる全員がそういった人々なわけではない。
大都市の外れの方には復興キャンプと書かれた旗の立っている場所もある。
そこでは復興のために来た移民たちが、小規模な畑を作ったり、小さな作業場を造ったり、細々と商売を営んだり、それぞれがそれぞれの方法で汗を流して労働に励んでいるようだった。
日が落ちると、彼らは政府の定めたそれぞれの仮住居に行き、そこで休養を取る。
彼らの仮住居は元々廃墟になっていた大都市の家だ。政府が家主のいない家を仮住居として割り振ったのだ。
政府は元の家主が廃墟に残した財産と遺体は回収していったが、財産としての価値のないと判断された物はそのまま放置されている。
だから、復興キャンプの人々はたしかにそこに他人が存在していたのだということをひしひしと感じながら生活を送る。この大都市、そして全人類の負った傷跡をひしひしと感じながら生活を送る。そのため、彼らは昔のトラウマを忘れることはできない。
「とおさーん。なんであっちのほうのいえにはだれもすんでないのー?」
「それはな、昔、とても怖い怪物が、ひとをいっぱい食べちゃったからなんだ」
「かいぶつー?」
「そうだ。あれは12年前だったかなぁ。あのときは父さん、グンジンで」
仮住居で生活を送る父親は、子供に昔話を聞かせながら過去を思い出す。子供には決して、かつて身を持って感じた恐怖に今もまだ怯えているということを悟られないように。
12年前。
魔法の箒に乗って中空で静止している大勢の魔法科兵はみんな、歯をガタガタと震わせながら南の空を見つめていた。そして、警戒命令が解かれるのを心の底から願っていた。
しかし―
「突撃だァ突撃!! 突撃しろォ!! お前ら突撃命令が下されたぞォ!! 上層部はここで大戦にケリを付けるおつもりだァ!!」
魔法科兵の部隊長は最悪の命令を下す。
覚悟はしている。
彼らはそう思っていた。
だが、実際に恐怖の権化を目の当たりにしてしまうと、揺らいでしまうものがあるらしい。
それでも彼らは命令に従わなければいけない。
人類の存亡が掛かっているのだから。
「総員に告ぐ!! 煙幕魔法と攻撃魔法を準備しろォ!! 聖人科兵の総攻撃と同時に突撃を開始する!!」
ズゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
死へのカウントダウンは案外すぐに始まった。
突撃の合図となる聖人科兵の総攻撃が始まった。部隊長は即座に箒を握りしめ全速発進で突撃していった。
「総員俺に続けェ!! 箒を握りしめろォ!! 突撃ジャァァァァ!!」
突撃した先は地獄だった。
横を飛んでいた彼らの仲間は次々と墜ちていった。
聖人科兵の総攻撃によって天空では壮絶な天変地異が続く。
大地は死んでいった友軍と逃げ遅れた大勢の難民の血で真っ赤に染まった。
突撃していく先には神々しさすらある真っ白な光が差す。
その先には、人間のような形相をしていたモノが。
次の瞬間。
彼らは一人残らず絶命し、墜ちていき、大地を流れる血の海の一部になった。
存亡大戦。
後にそう呼ばれる事になるこの地獄は、人類の過半を犠牲に払ったのち、たった一人の男の登場によってあっけなくも終結した。
終結してから10年後。物語が始まる。
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