ARCANA AGAIN 繋ぐ22枚と讐いる2周目

壬生諦

エピローグ 1周目

 長く伸びた前髪をかき分ける。悪夢から目を覚ました私の視界には、より最悪な現実が映し出されました。

 どうやら私が眠っていた間に世界の存亡をかけた戦いは終結してしまったみたいです。

 長いようで、記録としては短期間の出来事だったこれまでの旅路もまるで水の泡。最終局面まで生き残ってくれたみんなはきっと、最期の瞬間まで懸命に戦ってくれただろうに、肝心の私は呑気に眠っていただけなのだから甲斐性なしにも程がある。

「ごめんなさい」

 まだ現状を把握できていないというのに、すぐに詫びを入れるべきだと直感したので虚へ向けて謝罪しました。

 何が、どうして、こうなったのかは分からない。

 それでも、決して許されないことをしてしまった自覚はあるから、鮮やかなレッドが沁み込む大地に転がっている屍の中で、最も私の傍にいた真っ黒焦げのものを見下ろして一度謝ります。

「ごめんなさい」

 ……だけど、これでは何も始まりません。私の視界は私が動かないと景色が変化を起こさず、ただ無意味に時間だけが経過していくだけなのですから。正しく話にならない。

 どれだけ現状が悪いものだったとしても素直に受け入れた方が話が早く、後の人生の充実にも繋がるものだって遠くにいる屍から教わりました。

 だからもう謝らないで、慟哭を堪えて、罪悪感を吹り切って、この結末に至るプロセスを振り返りましょう。

 たとえ本心でそれを拒絶しても、私の思考は勝手に嫌な方へ歩み始めてしまいます。考えがまとまらないのです。心と頭はそれぞれ別人の物なのかもしれませんね。

 つい先程までここで壮絶な戦いが繰り広げられていたことは周囲の地割れや蔓延する煙からも分かります。これは私たちの雷魔法が多用された証拠です。

 これまでに対峙してきた『愚化』した者たちは皆、共通して基本の四属性魔法や、固有の異能・技術の効果を弱める特徴を持っており、代わりに雷魔法だけを苦手とする短所がありました。

 救世主たる私とみんなは、その雷魔法を駆使しながらこれまで勝利を積み重ねてきたのです。イレギュラーもありましたが……。

 その短所は愚化した者たちの王であり、全ての元凶の『愚者』にも等しく適用されたようです。この『ケテル』の地に待ち構えていた最後の敵は、みんなのおかげで跡形も残らず葬り去られたのです。

 この雷魔法を扱えるのは『カード使い』の私と、私が契約を交わした『アルカナ』のみんな……22人だけ。他の誰にも扱うことのできない特別な力であり、同時に世界の存亡を負う業でもあるのです。

 だから、雷魔法を扱えない他の人類が『大圧潰』を防ぐためにどれだけ工夫しようとも出来ることは限られており、最後には決まって私たちを頼るばかりした。

 始めから私たちのことを信用してくれればもっと少ない犠牲でやってこられたはずなのに、三国それぞれで他所と他者を出し抜くような思惑を巡らせてはそれに巻き込まれてしまうばかりだったので、大圧潰を阻止することにも繋がらない余分がたくさんありました。

 今になって思い出しても不愉快です。どうして彼らは私たちを信じて、円滑に事を進ませてくれなかったのでしょう。

 彼らだけじゃない。私と契約を交わしておきながらも後から裏切り、敵対する結果となったアルカナ。

 最終局面まで来てから私の召喚を拒み、屍になることを免れたアルカナ。

 分かり合えないまま関係が断たれ、仲間ではなく一時の協力者というだけのまま決別した数多の繋がり。思えば、みんなとの付き合いは上手くいかないことの連続でした。

 やっぱり私が駄目だったのでしょうか?いかにみんなが頼もしくても、みんなを束ねて方針を決めるべき私がカード使いであること以外何も特別ではなかったから?

 ずっとみんなの足を引っ張って、色んな人に罵られて、何でもないような場面でも仲間を死なせちゃって……そんな采配ミスばかり繰り返して自己嫌悪に駆られているうちに肝心なことを見落としていたのかなぁ……。

 そんなボロボロの心のまま、残ったアルカナたちと共に辛うじて『愚者』の待つ最後の地まで到着した私は下の国からここへの転移を敢行した時点で記憶が途切れており、気付けばこのように戦争後の荒野でみんなが眠る中、逆転して一人だけ目を覚ますことになったのです。

「『愚者』は倒したのですね」

 三国を脅かす人類共通の敵だった『愚者』は滅び、世界は大圧潰の危機から救われた。

 その正体を見ていない以上、確証などないはずなのに不思議と決着がついた確信が持てるのです。

 つまり私は、身に余る大役を成し遂げたということ。最後までついて来てくれたアルカナたちはみんなこのように死んじゃったけど、世界の存続に比べれば儚い犠牲ですよね!

 故郷に帰還した私はきっと、世界を救った救世主として万来の称賛を受けることでしょう。

 かつて三国を繋ぎ、大圧潰の未来に備える術を用意した史上最高の偉人である『賢者』と同じように、私も歴史に名を刻むことになるんだ!

 そのように想像するだけで旅の疲労が吹き飛んでいく。これまで頑張ってきた甲斐があった。

 何故か『愚者』の死滅だけでなく、大圧潰の停止まで手に取るように分かります。もう機能することもないようですし、これ以上ここに残っても意味はないでしょう。

「帰ろう。救世主の凱旋です。えっと、魔法陣は……」

 戦場を後にして転移に使用した魔法陣の元へ向かいましょう。場所は朧気ですが覚えています。

 今後の扱われ方を想像して口元が緩む中、焦る必要もないとゆるり、狭い歩幅で歩き出す私の前に1粒の小さな光が現れました。

 その光は、見覚えのあるものでした。

「あれは……嘘……」

 魔法陣と同じ方角だったため都合がいいです。数秒だけ寄り道をします。

 その光は屍の胸元から漏れ出していたものでした。『彼』は激戦の中でも肌身離さず大切にそれを仕舞っていたのでしょうか。

「ああ」

 その屍も当然アルカナに選ばれた元人間であり、私のよく知る相手でした。だから、一歩近づくにつれて段々と涙腺が緩んでしまいます。光の正体にも検討がついています。

「ああ……あああ」

 屍となった彼の傍で膝を突くのと同時に、復活してまだ間もない私の視界がまた何も見えなくなってしまいました。まるで肝心なものを隠すように。

 

 ――世界が酷く、見にくいのです。

 

「ユオレンなの?」

 それでも彼が誰かはすぐに分かりました。長く旅を共にした始まりの二人。その傍ら。

 そういえば、今日まで私たち三人はいつも一緒でしたね。私がこんなだから、いつも二人に迷惑を掛けては助けてもらうばかりでした。

 

 ――世界が酷く、醜くても、二人がいてくれたから私はここまでやってこれたのだと思います。

 

「まさか……」

 彼が着る近衛隊員の制服の内からでも光を漏らすそれは、私たち三人だけが持つお揃いの白いコインでした。

 三国共通の通貨としては『ペンタ』と呼称される金色のコインが利用されており、私たちが持つこの白色のコインは希少ながらも金銭的な価値はなく、所持する意味もないとされています。

 だからこそ、旅の途中でこのコインを譲り受けることになった私たちは、掛け替えのない友愛の証としてこれをネックレスにして肌身離さず持っていようと約束したのでした。

「ユオレン……ごめんなさい。私も……」

 彼の焼け焦げた上着を脱がせると、その胸にはやはりコインがありました。血に塗れているというのにそれでも変わらず白光を放つのだから不思議な品です。

 ただ、常に光っているわけではなく、むしろこれほど長い時間も輝き続けることは珍しいことです。

 これまでの旅路でもこのコインの本質を見出すサブタスクは果たせませんでした。彼のコインに対して私のコインはこのように全く光っていないのですから……何とも……。

「あれ?」

 いつもより胸元が軽い。あるはずの感触がない。

 白を基調とした機動性も色気もないロングドレスの装いをしているのですが、首元から胸に手を入れてもネックレスの紐が見つかりません。

 彼らとお揃いの、世界に3つしかない大切な旅の思い出が失われていたのです。

「そんな、どこ……」

 ポケット全てに手を入れてもそれが仕舞われている感触はありません。今の私が持っているのは護身用の短剣だけ。それ以外の思い出は何もかも無くなってしまったのです。

「コイン、大切にしてたのに……どうしてどこにもないの?」

 死してなおコインを手放さなかった彼と、呑気に眠っていただけでなくコインまで無くした私。

 義理を全うしたその屍を前に、今更になって慌てふためく姿はこれまでの醜態の集大成。

 それだけではありません。

 最終局面まで私について来てくれたみんなの壮絶な最期を……回避するどころか、見届けることすらもせず、自分だけが生き残ってしまった事実があまりにも……情けないより、恥ずかしい。

「あ……ああああ……うううっ……」

 私が、何もしなかった私がいよいよ泣いてしまいました。本当に涙を流すべきはここで屍となったみんなや、ここに着くより前に私の采配ミスのせいで亡くなったアルカナたちでしょうに。

 生き残っているだけで勝ち組のくせに、何もしなかったくせに、何でお前が泣いてんだ!

 そんな自虐の念に駆られると更に心が不安定になり、嗚咽では収まりがつきません。

「うううう!ああ……ごめんなさい!ごめんなさい!」

 ここにはもう私しかいません。加えて屍の他には何もない空間ですから、私の慟哭だけが荒野に響き渡ってしまうのです。

 勢いのまま彼の胸元に顔をうずめると、彼の焼けたインナーが見る間にびしょ濡れになってしまいました。私の顔も黒い泥を被ります。

「ごめんなさい!ごめん……ごめんね……みんな……私、私だけが……ああ、あああっ!」

 心の叫びを言葉にできない。懺悔すらまともにできない生き恥を晒して子供のように泣き叫ぶのみ。そういえば、まだ16歳だった。

 身に余る重責を全うしたというのに、こんな結末ではとてもハッピーエンドとは言えません。

 それとも『賢者』の物語のように綺麗に脚色されるのでしょうか。みんなの死は世界の存続のために必要な犠牲だったと、私を除く全人類は他人事としてこの救世譚を娯楽にするのでしょうか。

 ついさっきまで自分もそのように都合良く考えていたはずなのに、今ではこの有り様です。ようやく自分の犯した過ちに気付けました。

 これだけの醜態を晒しているのですから、誰か私を叱ってくださいよ。ユオレン、私の涙とか涎とかで汚されて嫌じゃないの?

「やっぱり私は相応しくなかった。私以外にカード使いがいなかったにしても別に私が指揮を執ることまでする必要はなかった。アルカナの誰かでもいいし、三国の王がそれぞれの拠点から指示を出してもよかった。私は家に隠れて、頭の良い皆さんに全て任せておけばこんなに犠牲を出すことはなかった。各国で一々揉めることもなかったじゃん。裏切りも、召喚拒否もなしでここまでやってこれた結末もあったはず。全部、全部、全部、私のせいだ……」

 今、自分が何を喋っているのか確かではありませんが、まるでスイッチが切り替わったように過去の失態がフラッシュバックされていきます。

 三国それぞれに思い出があり、本当に多くの人々と関わってきました。

 大圧潰などはあり得ないフィクションで、私もカード使いとして覚醒せずに占い屋さんを続けていたのなら、出会うことすらなかった多くの人々。私自身には何の取柄もないことを受容してくれて、それでも戦いを続ける意思を示すと潔く協力に応じてくれた優しい人たちがいました。

 しかし、それ以上に私のことを蔑み、身分を脅かす嫌な人たちもたくさんいました。今ではその人たちの怖い顔ばかりが脳裏に浮かんでしまいます。

 私にとって大事なアルカナたちや、各国の好い人々ばかりが死んでいったというのに、私にとって嫌な人たちほど生き残ってしまっており、これからもその醜悪な人生を続けていくわけなのです。

 私が守りたかったのは私の味方の未来であって、私の敵たちの生き死になんて別にどうでもよかったのに……。

 私たちは何のためにこれまで頑張ってきたのでしょう。これでは報われるものがなさすぎます。死んでしまったみんなは本当にこのようなエピローグで納得してくれるのでしょうか?

 私の安全を最優先に考えてくれたアルカナ。世界を守ることに重点を置いていたアルカナ。自分の信念のため、より困難な戦場を求めていたアルカナ。

 それぞれが別々の目的を胸に抱いて戦いに身を投じてくれました。相性の悪い場面でも我慢してくれてました。そして本来の能力を発揮できずに死んでしまいました。殺してしまいました。

 死の間際の私を睨むあの眼差しが思い出されます。あれはきっと、私への憎悪ではなく、お前などについたのが間違いだったと自分の判断ミスを悔やむものだったのでしょう。

「ああ、そうか。本当に私が悪かったんだ」

 何度も繰り返した確認・調整不足。

 コミュニケーションの欠陥により起きた未然に防げるはずの事故。そんなことを連発しているのに見て見ぬフリをして、ゴリ押しでここまでやって来てしまった無能の末路がこれなのです。

「もっと良い終わりがあったのでしょうか。みんながちゃんと生き残って、もし死んじゃうにしても、ちゃんとやりたいことを満足するまでやりきれるような……そんな終わり方が。嫌なことなんて気にする暇もないくらい充実してる……そんな幸せな生涯……」

 全てが終わってようやく思い知りました。

 つまり私は、このまま物語の結実を認めることがどうしてもできないのです。

 救い終えたこの後の世界には自分を満たすものが何もありません。老いるか病に倒れるまでのんびり生きていくなんて考えただけで気が狂いそうになるのです。

 例の嫌な人たちも救世主となった今なら態度を改めるかもしれませんが、そのように担がれて裕福になれるほど私の皮は厚くありません。

 自分から『あの病』に罹りに行くのもご免ですし……こうなってはもう、私が取るべき行動は1つだけとなりました。

 帰還に用いる魔法陣の存在などとうに忘れて、それの刃を外界に晒します。

 私の出身地。旅の始まりともなった『ティフェレット国』にて、国王からいただいた『生命の剣』と呼ばれる代物。ユオレンの剣より小さく、クロデイのナイフよりは大きい短剣です。

 これ自体に特別な力が宿っているわけではないですが、占い屋さんの私にとっては頼もしいお守りで、雷魔法を絡めて振るうとそれなりに強力だったので脅しには使えました。

 唯一つ残った思い出の品。コインの行方が知れない以上、帰還すれば真っ先に遺品として保存されるのでしょう。

 しかし、そうはさせない。私はもう、戻らない。

 最早『ティフェレット国』にも『イエソド国』にも『ダアート国』にも私の凱歌は流れません。

 生き残った人類はこの『ケテル国』に向かったきり帰ってこない私の安否を知らないまま、引き続き迷惑な不和を起こし、本当に世界は救われたのかと緊張状態に囚われてしまえばいいのです。

「はぁ。最後までこんな感じかぁ」

 今まさに、私の生涯にピリオドが打たれようとしているというのに、好きだったみんなよりも嫌だった人たちの滑稽な様を想像して勝手に不快になっていくだから、私とは結局どこまでいっても立場上の救世主でしかなかったようです。

 私のことを心から信じてくれた人がいるのなら、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。

「私は相応しくなかった……」

 だから、そんなみんなの無念が先に胸に刺さって苦しい気持ちになってしまいます。

 止まった涙が再び頬を伝うけど、さっきのような慟哭は堪えることができました。それはきっと、この苦痛から解放されることが決定したからなのでしょう。

「自殺ってこんな感じかぁ。やっと分かったよ。確かにこれは落ち着くね」

 私がこれからやることを、先にやるつもりだったアルカナがいました。

 自殺をする意味がよく分からなかった当時の私は、無責任にもそれを阻止して戦いの中で勇敢に死なせてあげたのだけど、今に思えばやっぱり止めるべきではなかったのかもしれません。

 彼女の最後には立ち会えませんでしたが、きっと私のことを憎んだまま逝ったことでしょう。それとも、本当は誰かに振り向いてほしかっただけなのかな?生きる希望が、自身と世界に対する未来への期待が……内にはあったのでしょうか?

 寄り添うことをしてこなかった私には誰の心も図れず終いです。

 それが最後の思考でした。

 最終まで残らなかったネガティブな彼女の顔を思い浮かべながら喉元に剣先を向けると、先端がうっかり肌に刺さり、細い血線がポトポトと私の胸に垂れてきました。

「あはは……」

 何だか締まりませんね。短剣をまともに使ってこなかったせいか、刃渡りの間隔がまだ馴染んでいないようです。今ので喉を貫いてくれても良かったのに、これでは潔くない。

 でも、おかげでもう迷いません。

 もうここには私しかいないけど、最後にうっかりを犯しながら旅立てるのは幸せなことのはずだから、これ以上は何も要素を加えずに幕を引きましょう。

 もう一度、同じように喉へ刃を。あと一押しで決着。手汗をかくことはなく、震えもない。直接誰かを殺めたことのない私が初めて手を下す相手がよりにもよって自分自身になるとは思いもしませんでした。

 それでも大丈夫。出来ます。

「みんな、今からごめんなさいを言う旅を始めますからね」

 死者には死後の世界で再会できるという迷信がある。くだらない希望だけど、今の私にはそれがとても心強い。こんな世界より、みんなが待っている方へ向かうのが良いから。

 眠るユオレンの隣で膝を突き、祈るように両手で短剣を握ってから空を仰いだ。

 次の瞬間、暗雲から一筋の光が射してきて私たちを照らし出した。コインの輝きとはあまりにもスケールが違う黄金の陽。つまり、迎えが来たということでしょうか。

「綺麗……歓迎してくれるの?」

 全身に鳥肌が立つのと同時にこれまでの嘆きの涙とは違う感動の涙が溢れました。最後にこのような光景が見られて良かったと、心が満たされていくのです。

 これが世界を救ったことの報酬なのでしょうか?

 もしそうだったらごめんなさい。私はもうこの世界で生きません。これ以上は生きるだけ無駄なのです。私の大切なものは全て遠い場所にあるから、私も今からそこへ旅立つところだったのです。ごめんなさい。

 だけど、ありがとうございました。これほどの温かい光に包まれて終わるのなら、きっと私の人生は良いものだったのでしょう。例えそうでなかったとしても、そう思えるうちに逝かせてください。

「私たちは大圧潰を防ぐために『愚者』たちと戦った。そして見事に勝利を収めて世界を救いました。みんなはもういないけど、みんなが生きた証が少しでも残るなら……それは正しいことなのでしょう」

 組んだ両手に力を込めて、眩しい視界を自ら閉ざす。決別の時です。

「私たち、私。私は、こんな終わりなんて本当は嫌だけど……もっと他に幸せがあったのかもしれない、けど……最低限、世界は救われたんだもん。だから……」

 私はその先を言うよりも早くこの苦痛から解放されることを選びました。考えるから疲れるのだと、死の間際に悟ったのです。

 もう十分ですと、納得させる隙も与えません。最初で最後の人殺しは確実に遂行されました。

 

 世界にとってのハッピーエンドであって、私にとってのハッピーエンドではないから納得できないなんて、あまりにも遅すぎるクレームでしょうから。

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