蝉が鳴く。悲鳴のように断続的でかつ永続的な声。一度聞こえると、どこからということなく、方角を捉えることのできない数。

 夥しい無限の悲鳴は、それだけを切り取れば狂気の沙汰であるのに、人間は「風情」というものを武器に,その悲鳴に思いをふけることができる。

 だがいつかどこかの医学者が、蝉の悲鳴が人類の聴覚において大きな悲劇を生んでいるという学術的発表なんかをしたら、それは「風情」ではなくなるのであろう。

「風情」とは「無害」が条件である。

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