「君を愛することはない」と言われた私ですが、嫁いできた私に旦那様の愛は必要ありません!
青空一夏
第1話 転生する前のエメラルド
私は園部杏。新婚3ヶ月の33歳で、愛する夫は8歳も年下の爽やかなイケメンだ。職業は公認会計士。桜が満開に咲き誇る三月から四月にかけては超繁忙期なので、今日も帰宅時間は深夜になっていた。
私は自宅マンションから10分ほど離れた賑やかな通りに事務所を構えていた。自分で言うのもなんだが、かなりやり手の公認会計士として頑張っていたのよ。大学在学時に資格を取得しその後大手の会計事務所に勤務し、信用や実績を積み上げ独立したわ。今ではバイトを含めると20人ほどの従業員を雇っている。個人事務所としてはかなり多い従業員数だけれどクライアントの数も多かったので、これだけの従業員がいても私は目が回るほど忙しかった。そのため、春のお花見は決まって仕事帰りの夜桜になってしまう。
今日も闇夜の幕が降りたなか、私は疲れた足取りで仕事からの帰路についていた。ひとり静かな夜道を歩くその両脇には、満月に照らされた桜の木々が立ち並んでいた。闇夜に咲く桜は薄い月明かりの下で幻想的な輝きを放ち、その美しさは言葉に尽くしがたいものだった。桜の木々は夜風に揺れ花びらを散らしていた。それは空中を舞い踊り月明かりの下で、きらめく光のように軌道を描いていた。
「今日の桜はやけに綺麗ね。今まで生きてきて見たなかで一番綺麗な桜かも・・・・・・」
独りごとをつぶやく私に、背後から声がかけられた。
「そうだね、本当に今日の桜は綺麗だね」
「え?」
それは聞き慣れた声だった。私の愛する夫である
「杏ちゃん。ご、ごめんね。僕、こうするしかなかった。ごめんね、ごめん。ごめんなさい」
私を突き飛ばしたのは
トラックのヘッドライトのきらめきが波打つようにみえて、次の瞬間には自分の身体が宙に浮くのを感じた。身体に衝撃と痛みが走る。死ぬのだと悟った私は、空を見上げながら虚空に手を伸ばした。綺麗な満月と、はらはらと散る夜桜が目に入る。私の愛した男は泣きながら私をじっと見つめていたけれど、やがて闇のなかに駈け出して行った。
桜が両脇に咲き誇る通りは、夜は人通りがめっきり減るビジネス街だ。その時も私と
たくさんの憶測が浮かんでは消えた。8歳も年下のイケメンと結婚したのがそもそも欲張りすぎたのかしら? 命の炎が消えゆきつつある私の思考回路は極論に達していた。もし、また生まれることができたとしたら、年下のイケメンとは絶対結婚しないと。そう堅く決心すると、次第に目の前が暗くなり静寂が訪れたのだった。
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