第18話 水族館デート

 ついにデートがはじまった。

 港にある水族館まで瑠海の車で向かい、三十分ほどで到着。

 この辺りでは一番大きい水族館だ。


 中へ向かい、入場料金を払い巨大な水槽を眺めていく。


「魚がたくさん泳いでいるなぁ」

「すごい迫力だね。ウミガメが優雅に泳いでいるよ~」


 こうして海の生物と触れ合うのも悪くないな。

 なにより、瑠海が上機嫌で俺も嬉しかった。

 手を繋ぎ、義理の兄妹であることを忘れるほどの距離感。周囲から見たら、恋人同士に見えるのかな。


 ゆっくり水族館内を回り、最後の通路を歩き出口へ。あれから一時間ほど滞在していた。


「いろんな生物が見れて楽しかった」

「うん、深海生物も見れたし大満足だよ」

「そろそろ昼ご飯にしようか」

「そうだった。お昼過ぎちゃったけど、そうしようか」



 その前に瑠海はトイレへ向かった。俺も済ませておくか。



 ――五分後。



 俺はスマホの画面を眺めながら待っていた。

 十分が経過しても瑠海が帰ってくる気配がない。いくらなんでも遅すぎる気がするが、女性にはいろいろあるだろうし、俺はもう少し待つことに。



 それから二十分が経過した。



 まて……さすがにおかしいだろ。

 気になって俺は瑠海を探すことにした。

 周囲を歩いてみるが姿はない。

 女子トイレにこもっているのか?


 電話をしてみるが繋がらない。

 どうなってやがる。


 心配になった俺は、勇気を振り絞って周囲の観光客に瑠海のことを聞いた。


「あの、すみません。お嬢様風の女の子を見ませんでした?」

「うーん、見てないね」

「そうですか……すみません、ありがとうございました」


 何人か聞いて回ったが瑠海の手掛かりはなかった。こうなったら最終手段……受付で聞いてみるか。


 まさか迷子の相談をすることになろうとは。


「どうされましたか、お客様」

「あ、あの……連れが行方不明でして」

「お名前と特徴をお願いします」


 俺は詳しいことを説明した。

 水族館のスタッフも協力して探してくれることになった。人数がいれば発見もしやすいはず。

 とりあえず俺は外へ出てみた。


 もしかしたら車に戻っているんじゃないかって思ったからだ。


 駐車場へ向かい、瑠海の車を確認。しかし、施錠されており特に異変はなかった。



 くそっ……どこへ行ってしまったんだ。



 立ち尽くしていると、ふと観光客の会話が耳に入った。女性二人が何かニュースのことを話していた。



「ねえ、聞いた? ここ最近、女の子の連れ去りが多発しているんだってさ」

「あ~、それ聞いた。小学生とか中学生の女の子を誘拐して酷いことしてるんだってね。最近、この水族館でも犯人らしき男が現れたって」


 ……マジか!

 ま、まさか……その犯人が瑠海を連れ去って……!?


 だとすれば駐車場にまだいる可能性が。


 しらみつぶしに俺は駐車場を回っていく。十台、二十台……たくさん止まっているから探すのは大変だ。でも、瑠海が連れ去られているかもしれないと思うと、居てもたってもいられなかった。


 怪しい車が止まっていないか入念に見ていく。


 すると隅の方にハイエースが止まっていた。

 あれは俺たちが来た時からずっと止まっている車だ。いや、まさかな……。


 けど近づいてみると、少しボロいし……ナンバーもなんか変だぞ。不信感を抱いた俺は、ハイエースに目星をつけた。


 ノックしてみると……。


 反応はない。



 だが。



『――――すけて』



 !?


 なにか“声”が聞こえたような。



『――――たすけ』



 誰かが押さえつけて声を漏らさないようにしてるように思えた。それに“たすけて”と断片的に聞こえた。


 扉を開けてみると、後部座席にはデブ男がいてこちらに振り向いた。


 それと……瑠海!


 手足を結束バンドで縛られ、口もガムテープで封じられていた。



「瑠海!!」

「――――!!」



 涙目で必死に助けを求めてくる瑠海。そうか、やっぱり連れ去られていたんだ!



「おまえ、瑠海になにしてやがる!!」

「……ち、ちくしょう。見つかっちまったか!」



 デブ男はなにやら凶器のようなものを出した。こ、これは……包丁! こんなものを持ち歩いているとか!



「瑠海を返せ!」

「返せぇ? こんな可愛い中学生の女の子は久しぶりだ。この子は僕のものだ! 身も心も僕に色の染めてから、バラバラにして捨ててやるつもりさ」


 こ、こいつ……性犯罪者か!

 こんな男が野放しになっているだなんて!


「ふざけんな! お前をとっ捕まえてやる!」

「小僧、お前には無理だ。こっちには包丁があるんだぞ!」


 凶悪犯は包丁を振り回してきた。


 が、水族館のスタッフが異常を察知して向かってきてくれた。三人も来てくれたのか! 助かった!



「そこのお前、なにをしている!!」

「おい、包丁を振り回している輩がいるぞ!!」

「すぐ警察に通報だ!」



 これでもう男に逃げ場はないぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る