第9話 殺人未遂事件

「くらえッ!!」


 スマホを投げつけ、朱音の顔に命中させた。

 見事にヒットしてバランスを崩していた。



「ぎゃあっ!?」



 その拍子に朱音は包丁を落とした。

 瑠海さんは隙を見て包丁を回収。

 これで凶器はなくなった。



「助かりました、瑠海さん!」

「ううん、いいの。それより、隼くん大怪我しているじゃない! ほら、傷口をしっかり押さえて。救急車呼ぶわね」


 的確な指示を出してくれる瑠海さん。俺は従った。

 激痛が今更走り、めまいと吐き気がした。


 ……やば、死ぬ。


 でもまだ終わっていない。

 朱音はひるんだだけだ。



「瑠海さん、朱音を……!」

「そうね。確保するわ」


 凶器を失った朱音を迅速に捕まえる瑠海さん。これで……もう安心だ。


 その後、瑠海さんが警察と救急車を呼んでくれた。


 朱音は殺人未遂の容疑で逮捕され、連行された。



 俺は……。

 俺は意識を失った。



 …………瑠海さん。



 * * *



 ふと目を覚ますと、知らない天井があった。

 あれから病院まで運ばれたらしい。


 病室にあるベッドの上に俺はいた。


 ……外はもう昼か。



「……隼くん、起きたのね!」



 泣いて飛びついてくる瑠海さん。



「あ、瑠海さん。……って、痛いですよぅ!?」

「ご、ごめんなさい。でも心配で」

「どうやら、俺は死なずに済んだようですね」

「危なかったのよ、隼くん。思ったよりも血を流していたから……」


 俺はそんなに危なかったのか。


 いや、それもそうか。

 あの時、包丁で腹を刺されていたんだ。

 もっと場所が悪かったら、俺はとっくにお陀仏だっただろうな。


「瑠海さんは命の恩人です。ありがとうございました」

「いえ、当然のことをしただけよ」


「朱音どうなりました?」


「朱音ちゃんは逮捕され、今は拘留中。殺人未遂事件として扱われているからね」


 そうか、事件に発展したか。

 思えば朱音は望んで事件にしたように思えた。あのおじさんの元へは帰りたくなかっただろうからな。


 結局、俺は最後まで利用されたってことかな。


 今となっては真相は闇の中。


 あとは警察に任せるしかない。



「刑務所行きなんですかね」

「うーん、未成年だから女子少年院とかかしらね」

「女子少年院?」

「そのままの意味よ。女の子の少年院。20歳未満で罪を犯した場合、入る施設」

「そこで更生するんですね」

「多分ね」


 となると、もう二度と会うこともないだろう。



「分かりました。これで朱音のことは忘れられます」

「本当のいいのね?」

「はい。朱音は俺を殺そうとした。その事実はもう変えられないし……俺自身も、もう朱音とは暮らしたくないと思っているんです」


 これからは瑠海さんと暮らす。

 それが俺の望みだ。



「じゃあ、私と一緒に」

「もちろんです。俺は瑠海さんが好きなんですから」


「……嬉しい。私も隼くんが好き」



 瑠海さんは俺のくちびるにキスをくれた。


 愛のある大人のキスだ。


 ……俺、幸せだ。


 そして俺は決意した。

 瑠海さんを“義理の妹”にすると――。

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