誇張しすぎた怪異vs究極怪異破壊師
午後御膳
vs口裂け女帝 プロローグ
怪異-それは人々の噂により現代に顕現した魑魅魍魎。
人の噂により産まれた者は、至極当然、人の噂で増長する。
これは、誇張され絶大な力を得た怪異達とそれらを破壊することを生業とする男の熾烈な戦いを描いた物語である。
「なあ朝のニュース見た?」
「あー、例の口裂け女とかいうやつ?」
「それ!」
200X年、その年は「口裂け女」と呼ばれる通り魔による殺傷事件が頻発していた。
犯人は自らに口紅で口が裂けたようなメイクを施し、血のような色の赤いコートを着込んで道行く人間をナイフで滅多刺しにしては雲隠れし続ける。気の違えた女一人の凶行ではあったが、なかなかどうして警察は足取りを掴めずにいた。
そんな状況が長々と続き、人々は混乱とそれへの畏怖の念から身勝手な憶測や妄想を囁き始める。
「ねぇ、ワタシ綺麗?って質問してきて、答えると殺されちゃうんだって〜!」
「ナイフ、鎌、ハサミとか色々な刃物を使って襲ってくるらしいぞ」
「100メートルを6秒で走るとか」
「実は三姉妹で全員口が裂けてる」
そのような根も葉もない噂が乱立し、人々は別種の「口裂け女」という偶像を創り上げた。
だがある時、その騒乱が一時の終わりを迎える。
件の通り魔が逮捕されたのだ。被害総数は63件。そのうち58名が死亡。5名は重体。
犯人である女は発言が支離滅裂でまともに意思疎通ができる状態では無かったため、裁判では特に責任能力の是非が問われた。しかし殺害方法の残忍性や被害者の数、社会秩序の遵守のため異例の精神疾患患者への実刑判決による死刑が言い渡される。
それから半年後「口裂け女」と呼ばれた通り魔事件の禍根が取り除かれ、人々は安寧の日々を取り戻していた。
かに思えた矢先、再び事件は起きる。
被害者は
その日は図工の時間に完成しきれなかった作品を仕上げるため、夕方6時まで学校に残り、それから帰路についていた。
夕陽が街を鈍く照らしながらも、道端の雑草の翳りすらも一層濃くしていく。
親へ遅くなる旨の連絡をし忘れていた愛美は、急ぎ足で自宅へと向かっていた。
学校から700mほど歩き、自宅へはもう一つ角を曲がるだけで着くという時一人の女が声をかけてくる。
「ねぇ、ワタシ綺麗?」
顔の下半分が隠れる大きなマスクをし、赤いコートを着込んだ女。その背丈は2m程もあり、愛美は首をかなり曲げて見上げなければ顔が見えなかった。よく見ると目は赤く血走り、愛美の顔を刺々しく睨みつけている。
「き、綺麗だと⋯思います」
愛美は震える声でおずおずと答える。
女は沈黙し、愛美を睨み続ける。
異様な女の姿に愛美はこれ以上近くにはいるまいと、震える足に力を込め女と塀の間を駆け抜ける。元々運動が得意ではないため、時々足がもつれそうになるが、それでも必死に走った。
何とか自宅の前まで辿り着いた。もう辺りはすっかり暗くなり、街灯には小さな虫達が飛び交っている。
両親が帰ってきていることはリビングを照らす暖かな光と二人の談笑が聞こえてきたことで分かった。
ようやく帰って来れた、そう安堵しレバー状のドアノブに手をかける。
瞬間、凄まじい力で右肩を掴まれる。
あの女が後ろにいる、愛美はそう確信した。
どす黒く悍ましい吐息を首筋に感じる。
安住の地はすぐ目の前で、助けを呼べばすぐに駆けつけてくるだろう。だが声が出ない。
涙が溢れそうになるのを堪え、一気に後ろを振り返る。
眼前にあるのは先程遭遇した女の顔。マスクを外し顔の下半分をさらけ出していた。口は耳元まで裂けており、血走った目とその口で下卑た笑みを浮かべている。
「これでもぉ?」
芹沢愛美の遺体は自宅から15kmほど離れた山奥で見つかった。遺体はナイフ、鎌、ハサミ、などの多種多様な凶器で切り刻まれていた。
その事件を境に全国各地で再び「口裂け女」の被害報告が相次ぐようになる。
同じく再び人々はそれを恐れ、ありもしなかったはずの口裂け女の実態を自らの邪推で誇張し肉付けしていった。
-時は移ろい、20XX年。
人々の噂により絶大な力を得た「口裂け女」は「口裂け女帝」として新たな帝国を築かんとしていた。
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