枯樹生華
この通りにある豆腐屋は八十歳くらいの婆ちゃんが独りでやってるんだ。
オレはお袋に頼まれて、偶にその豆腐屋に豆腐と味噌を買いに行くんだが、婆ちゃんは皺だらけで、腰も曲がって、毎回独りで大丈夫なのかなって思うわけ。
なんでも、婆ちゃんの旦那さんは十年前に亡くなっちまったとかで、それ以来ずっと独りなんだと。淋しくないのかな、なんて考えるけど淋しくないわけがないよな。婆ちゃんずっと暗い顔してるし。
近所の爺ちゃんによれば、亭主が亡くなる前までは、婆ちゃんは活発で明るい婆ちゃんだったらしいんだ。背筋もピンと伸びてね。
それが、旦那さんがいなくなってからは口数が減って、腰が曲がって、どんどんと老いてって……。
ところがどっこい、最近の婆ちゃんといやぁそりゃもう元気なんだよ。顔がぐっと明るくなって、キビキビ動いちまって、妙薬でも飲んだのかってくらいさ。
気になったオレは、三日前、豆腐屋に行った時に尋ねたんだ。「最近何かあったの?」って。そしたら婆ちゃんは「孫がウチに引っ越してきたんだよ」って笑顔で言うわけさ。
オレは孫がいたのかってびっくりしたのと同時に、婆ちゃんが元気になった謎も解けた。
そしたら、ばあちゃんが店の奥に向かって、「ほら、いらっしゃい」って声を掛けるんだ。
なんだろうと思ったら、数秒後にばあちゃんは何も無い隣を見て、「この子がわたしの孫だよ」って。
オレは婆ちゃんがいいならまぁいいや、って思っちゃったよ。
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