四肢小噺

祈月 酔

馬耳東風

「君、此処は右に曲がった方がいい」


 いいや、俺は左に曲がるね。

 指図される毎日にウンザリだ。俺は声の言う事を一度も聞いた事がない。俺以外の奴に俺の行動を決められるのは、腹が立つだろう?

 今日も車を運転している時に、隣から曲がる方角を指示される。

 俺は自分の記憶だけを頼りに運転しているんだ。邪魔しないでくれ。

 

「君、今日は外に出た方がいい」


 いいや、俺は一日家に引き篭るね。

 料理を作って、積んでいた小説を読み、ベッドに寝転がる。なんて有意義な一日なんだ。

 窓の外からは、豪雨が激しく地面を打ち付ける音が響いてきた。


「君、このまま真っ直ぐ進んだ方がいい」


 いいや、俺は引き返すね。

 ざわざわと周囲の人間が来た道を引き返す。気弱な男性は俺と同じ場所まで登り、「ひっ」と怯えた声を漏らした。

 俺はやれやれ、とため息を着く。

 今日は登山ツアーの当日。山頂近くまで登ったのはいいものの、先頭がルートを間違えたのか、俺の数歩先は断崖絶壁が広がっていた。

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