第48話 魔王

部屋の奥に据えられた玉座に坐っているモノは、ひと目で魔王とわかる禍々しさを纏っていた。

それに「魔王」という看板も置いてあった。

空気が今までとは比にならないほど冷たく感じる。

あきらかにエアコンの設定温度が他と比べて低い。

魔王には地球温暖化への配慮も全くなかった。



「お前の噂はわたしの耳にも入っておる。」

カンペを出された。

えらく達筆だ。



つば●郎かよ。



「ギルティシア、お前はそちらにつくのだな?」



文字数多すぎてカンペの文字小さくなってるじゃん。

大きい紙用意しとけよ。

それにギルティシアって誰だよ?



「わたしはこちらの勇者様と共に、あなたを倒します。」


「そうか。それではわたしも、お前が娘であろうが容赦せぬ!」

更にカンペの文字が小さい。しかも最後の方、小さすぎて字がつぶれてよく見えない。


最後の文字まで読み終わる前に戦闘態勢に突入した。



待て。


今のカンペ、途中までしか読めなかったけど、なんかサラッと大事なこと書かれてなかったか?



「アイザック、油断するな!」

オレにきた魔王の攻撃をキルトが受けた。

「悪い!」



考えるのは後にしよう。

まずは、こいつを倒す!

そして後でカンペを読み直す!



魔王の強さは圧倒的だった。

なんとかかわしているが、これでは攻撃できない。

どうしたらいい?



魔王がカンペを出した。

「マヌケーサ!」



オレは幻に包まれた。


幻の中で、村人たちが何か言っている。

「さすがは勇者様!魔王を倒すとは!」

「勇者様バンザイ!」

「勇者様!」

オレは言った。

「違う!倒したのはオレじゃなくてキルトだ!」

「何と!こちらのキルト様が魔王を倒したのですか!」

「キルト様!キルト様!」

村人たちは手の平を返したようにキルトを褒めたたえ始めた。

しめしめ、これでオレは用なしだ。

酒場に行って昼間っから飲んだくれてやる!



そこで、はっと幻から目が覚めた。


もしかして、あの意味わかんなかった洞窟の特訓の成果?



「ぬぬっ。わしの魔法から目を覚ますとは…」

魔王は必至で書いたカンペをこちらに向けた。

苛立ちが文字にも表れていた。



でも、この先どうする?

オレが補助魔法でキルトの攻撃を助けるか?



「アイザック、攻撃は任せた。」

キルトが囁いた。



え?

なんで?

キルトの方が強いのに。



キルトが一身に魔王の攻撃を受け始めた。



どうして?


でも、キルトがそう言うなら、信じるしかない。



オレはとにかく魔王に攻撃を仕掛けた。

キルトは魔王の攻撃を受けながらも、オレに補助魔法をかけてくる。

これじゃあキルトの負担が大きすぎる。

何か策はないのか?


魔王の攻撃、間合い、魔法のタイミング…


あれ?

これどこかで見たことがある?


今、隙ができる!


魔王への攻撃が入った。


まさか…


嘘だろ…


魔王の次の攻撃が手に取るようにわかる。


次にどう出るか、どっちから攻撃が来るか、わかる。



魔王の攻撃は、キルトの特訓と同じだった…



まるで音のない世界で戦っているような錯覚さえ感じていた。

魔王は魔法もカンペを使ってくるからだ。


次の手が読める分、先手を打って仕掛けられる。

何より、魔王の攻撃を全てキルトが負ってくれている。

横目で見ると、キルトがボロボロになっていた。

キルトに回復魔法をかけようとして、首を振られる。


「カラアゲ食べたい。」そんな目だった。

違った。

「こっちに構うな。戦いに集中しろ」そんな目だった。



だったら、少しでも早くこの戦いを終わらせるしかない。

こんな真面目な展開、誰も望んでないし。



横でザッと言う音がして、見るとキルトが膝まずいていた。


まずい。


その時、魔王に隙が生まれた。


今しかない。


全ての力を剣先に集中させて、攻撃魔法と同時に剣を振り翳した。



ぎゃーーーーーーーーーーっ。

まさかのここもカンペだった…

走り書きになってるから字が汚い。


同時に地鳴りのような音が響いた。

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