夜這い
りょーくんが部屋から出たあと私は一人で泣いた。白いゴミがいたので正確には一人ではないが、そんな事は些細な問題だ。
嫌われたかもしれない。
頭の中をその言葉が
前に失敗したせいで、もうりょーくんはこの部屋に来てくれないかもしれない。そう何回も何回も思った。でもりょーくんは来てくれた。
単純に暑いという理由だけじゃない。自分を襲おうとした相手のお願いを聞いてまで、この部屋に来てくれた。また襲われるかもしれないのに。
その信頼が心地良かった。
今まで幼馴染として築き上げてきた安心と信頼の要塞は伊達じゃない。
そう幼稚園から高校の今に至るまで、片時でさえ彼から意識を外さないようにしてきた。
初めてあった時の衝撃。幼少期の気まぐれなんかじゃない。彼が運命の人なんだと分かった。
りょーくんの隣にいる女は私だけでいい。もし目移りしそうになっても最後に横にいるのが私であれば良い。
いや、あれば良いじゃない。最後に横にいるのは私なんだ。そう運命で決められているはずだ。
例え今まで築き上げてきた要塞が崩れそうになっても、すぐに補修して立て直す。要塞は補修すればするほど強くなる。
それと一緒だ。だから私とりょーくんは今まで二人の愛の要塞を補修し続けたんだ。
りょーくんは基本素っ気無いけど、私のことを大事にしてくれてるって分かってる。
本当はもっと構ってほしいけど、沢山欲しがるのは良くない。愛し合ってると分かっているなら、現状に満足するべきなのだから。
でも例外はある。
どんなに強く堅牢な要塞でも、時間を置かずに弱点を攻撃すれば崩れる。
だからもう襲わないと決めていた。りょーくんが嫌がる事は絶対にしないと。嫌われたくないから。
でもやってしまった。
今思えばあの黒い衣装を纏った時から違和感があった。
やけに体が軽かった。疲れなんて全く感じない。全身に力が漲るという感覚を肌で知った。
りょーくんにくっついていないと落ち着かない。彼のいる場所、彼の隣が私の安息地。
黒い衣装を似合ってると、りょーくんは言ってくれた。それが嬉しくて抱き着こうと手を広げて彼に向かって飛びついた。
あの時留まるべきだった。
あの瞬間の記憶が頭の中から消えてくれない。
今の私はりょーくんを簡単に抑え込める。今まで出来なかった事が出来る。力任せに彼を好き放題できる。彼を私という縄で縛り付けれる。
そう思った時、私は腕に力を込めていた。
りょーくんが寝てる間に何回もキスしてるけど、起きてる時は初めてのキス。
それを強引にしようとしたとき、白いゴミが…
あれ?ちょっと待って?これコイツが邪魔しなければ、行けるとこまで行けたのでは?普通にお付き合いしてお突き愛まで行けたのでは?
思い返したら私悪くないかも。
私はりょーくんを愛したかっただけ。
あのまま行ってもりょーくんは、私の事受け入れてくれたはずだし。
悪いのコイツじゃん…
なんかイライラしてきたな……
「あの…お気持ちはお察じぃ"っ!」
このゴミを思いっきり握る。
良い感じに柔らかくて、ニギニギしてるとストレス発散になる気がする。
「じょ"っ…や"め"っ…ぺぎょっ!」
うるさかったから、ゴミ箱に向かって投げた。
昨日ゴミ捨てたからゴミ箱の中は空になっていたはず。汚くは無い…と思いたい。
「うぅ…急に……酷い…………」
ノロノロと白いゴミが這い上がってきた。
あの腕輪はコイツが出したものだった。さっき使ったやつはりょーくんが持って行ってしまったけど、あれがあれば好きな時にりょーくんを襲える。
「ねぇ…」
「な、何でし"ょ"っ"……」
ヨロヨロと浮いてこちらに近づいてくるゴミ
顔の前まで来たところで、逃げないようにしっかり掴んだ。
ちゃんと話せるように優しく掴んであげる。私はなんて優しいんだろうか。
「さっきの腕輪」
「魔法少女リングの事ですか?」
「そうそれ。もう一個」
「いや…あれは、一人い"っ"こ"ぉぉぉぉ!」
このゴミ、嫌とか抜かしやがった。
私とりょーくんのR-18展開を邪魔したんだから、その分の償いをするべきだと思う。
そう思いながら、ゴミを力強くニギニギする。やっぱこれ凄くストレス発散になる。
「は?あるなら出せよ」
「で…も"お"お"お"っっつ…!」
「はやく」
意外と意思強いなコイツ。
はやく変身してりょーくんのとこ行きたいんだけどなぁ……
「出しましゅ!出しましゅ!」
「分かればいいんだよ」
ゴミをポイッと投げ捨てる。
うぅ…とか言って唸り声を上げながら、先程も見せたワープホールのような物に手?を突っ込んで漁っている。
あの中には何が入っているんだろうか。人間を洗脳したり発情させたりできる物が入ってたり…
まぁ、それは後でいいや。今は変身することが一番の優先だしね。
「ど、どうぞ……」
色が違う……
最初に貰ったものは白い腕輪だったが、これはドス黒い色をしている。
形状は一緒だが、最初の物と比べて禍々しいオーラが溢れていた。
「さっきのと違くない?」
「少々特別な物なのです。色は違いますが…」
「そっか!ありがと!貰うね!」
真面目に説明を聞くのが面倒くさい。
何でコイツはこの姿でこんな渋い声をしているんだろう。聞いてられない。
取り敢えず危険がない事が分かった私は、早速腕輪に力を込めた。
先程と同様に部屋中が黒い光に包まれる。
この変身も一々長い。こんな演出見ないでパっと変身できたりしないんだろうか。
光が収束したあと、自分の身体に視線を落とす。
特別な物って言ってたから期待したけど、衣装自体は何も変わらないんだなぁ…
「ねぇ、この変身もっと早くできたりしないの?」
「魔力の操作を上手くこなせば、何倍も早い速度で変身できますよ。」
「そう。じゃあそれ教えて。」
最初は変身の高速化だけのつもりだった。だが、そこから数時間の間、魔力についてみっちりと勉強した。
コイツの言う魔力は本当に便利である。火も起こせるし水も出せる。少し魔力を意識して使えば、物体の時間を巻き戻すことも、触れただけで全てを粒子に変えて消し去る事もできた。
これは使える…そう確信した。
白いゴミは私が魔力を使う度に「て、天才だ…この娘なら世界を救える……」とか抜かしてた。
世界なんて救う気は無い。私が救うのはりょーくんだけだし、この力もりょーくんと私の為に使う。
窓の外は真っ暗。
今日も一日が終わってしまう。
個人的にはりょーくん成分を補充してから、りょーくんのベットで眠りたい……
でも、こんな夜遅くに行ったらお義母さんとお義父さんに迷惑かもしれないし……あーでもりょーくんの両親二人とも忙しいからあんまり家に居ないしな〜
「ま、いっか…いっちゃお〜」
「え"っ…こんな時間から何処に?」
「そりゃあ…りょーくんの家だけど……」
何だコイツも付いて来るのだろうか。
りょーくんと私の㊙な事は、誰にも見せたくないし聞かれたくも無いんだけど…
あ、でもそっか…突然この衣装のまま訪問したら、皆混乱しちゃうか…
「なに、お前も来たいの?」
「行きたい訳ではありませんが…魔法少女の援助妖精としては………」
確かにコイツには魔法教えてもらったし…
いや駄目だ。りょーくんともしラブラブする展開になったらコイツは邪魔になる。
「え、無理」
もしもの事があるかも知れないので、一応可愛い下着を付けて行こう。
りょーくんは健康優良児なので、この時間はもう寝てるだろうけど、私の事思い出してエッチな気分になってるかもしれないからね。
腕輪を筆頭にその他諸々を持って家を出た。
りょーくんの家までは歩いて五分くらい。
もう家の屋根が見えてきた。
心と身体の距離だけじゃない。私達は家の距離も近い。いつでも遊びに行けるし、いつでも帰れる。ここに引っ越してくれた親には感謝している。
外からだとりょーくんの家は電気が消えていた。
今日は多分、家の中にりょーくんしかいない。
インターホンを鳴らして起こすのも可哀想なので、お義母さんから「息子を宜しくね」と言われた時に貰った合鍵を使って侵入する。
そ~っとりょーくんの部屋に入った。
相変わらずエアコンが壊れていて暑い。扇風機一台で耐えられるはずがない。汗だくなのが好きなんだろうか……
取り敢えず腕輪を装着して魔法少女に変身した。
りょーくんを覆うブランケットに下から侵入していく。
その間で濃いりょーくんの匂いが鼻孔を刺激して最高に良い気分になる。これはキマリそう。
好きな人の香りに包まれる安心感。私はベットに潜り込んでからすぐに眠ってしまった。
目が覚めた。
自分の衣装に太陽光が反射して眩しい。取り敢えずブランケットの中に潜った………ぁ……
そこにあったのは一本の立派なうまい棒。それは私を誘惑するようにそそり立っている。
駄目だ…我慢しろ……と言う私の中の天使をガン無視してズボンを下ろした私は、守る物が無くなったうまい棒を躊躇なく咥えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます