第5部 第1章 グルクルド王国
西の大国のグルクルド王国のジン国王が王座に座る。
新興の大国で、前は実はザンクト皇国の属国であった。
十数年前の戦いでザンクト皇国の属国から戦って離脱して完全に独立した国である。
グルクルト王国の国民や貴族から名前からわかるのだが、かなりの転生者がグルクルド王国の国民として生活しており、裏を返すとザンクト皇国の転生者が逃げ出して、それをザンクト皇国から受け入れていた国である。
グルクルト王国に転生者の血筋がいるのはザンクト皇国も知っていたが、猟犬が強くなるのならばと見逃していた。
まさか、それが自分たちにか噛みついてくるとは思わず。
しかも、ザンクト皇国は属国のグルクルド王国を強くする為と転生者を放置しておいていて転生者に対するザンクト皇国の蔑視は変わらず、戦術もヨハン達みたいな修羅ほど無茶苦茶はしなかったが、ザンクト皇国が騎士としてもっとも馬鹿にする弓兵を中心にグルクルト王国は軍備をしており、その結果でザンクト皇国との戦いに勝っている。
誇りにかけて、そのような卑怯な戦い方はしないとか言う馬鹿なザンクト皇国は属国なら良かろうと、実は戦場では本当の花形である弓兵を属国のグルクルド王国に任せていた。
結果としてグルクルト王国に負けた後に、それを憂えていた貴族の一部が改善して、弓兵を組織するが、それは軽輩のみで組織されて騎士達は相変わらず弓兵を馬鹿にしていた。
属国であるがゆえにザンクト皇国の始祖にして守り神たる女神エーオストレイルに対しての邪神達を祭る教団がひっそりとグルクルト王国で生き抜いていたのも両国の本当の溝の深さのせいである。
それがザンクト皇国からの独立運動で非常に活躍して、グルクルト王国の国教に近いほどに拡がっていた。
そのグルクルト王国に敗北後にザンクト皇国前皇帝が心労で急死したために、慌てて皇帝になったのがザンクト皇国の現皇帝であった。
彼はザンクト皇国では変な男の娘とかいかがわしい趣味をしていた為に、勝ちにおごったグルクルト王国は馬鹿に仕切っていた。
ジン国王はザンクト皇国から独立を果たすほどキレものであったから、ザンクト皇国に油断はしていなかったが、ザンクト皇国の皇太子時代から性癖がおかしいのと、金目当てに本来ツェーリンゲン公爵家から貰うはずの第一皇妃をグンツ伯爵から貰うなど、もはやザンクト皇国は風前の灯のようなものだと思い、実は軍備を増強し、ザンクト皇国を本格的に滅ぼそうと思っていた。
ジン国王の見立て通り、ザンクト皇国を事実上支配する三公爵家の筆頭のツェーリンゲン公爵家はザンクト皇国の現皇帝に反感を示して、ザンクト皇国の現皇帝と距離をとり、そして、その後にツェーリンゲン公爵家は第二皇妃になったツェーリンゲン公爵家の分家のオイレンブルグ侯爵家との間に産まれた第二皇太子を立てて皇位を奪い取ろうとした。
あくまで、その内戦としての第一皇太子と第二皇太子の戦いであったはずの戦いで、なぜか勝つはずのない第一皇太子が勝つ。
しかも、倒した皇太子の配下に大量の転生者がいる事、そして正体不明の修羅と自らを呼ぶ山賊のような部隊が実はザンクト皇国で転生者を管理しているシェーンブルグ伯爵家の傘下である事を知る。
つまり、ザンクト皇国は実に今まで虐げていて蔑み見ていた転生者を中心にザンクト皇国の中枢を組み換えし始めたのだ。
その結果、三公爵家筆頭のツェーリンゲン公爵家は廃絶、そしてアルンハルト公爵家も勇者なのにアルンハルト公爵家でひどい扱いを受けていた次男が継いだ。
この辺の事情は転生者と関係が深くてザンクト皇国の状況を知るジン国王にしたら、想定することはただ一つである。
つまり、アルンハルト公爵家はたまたま転生者として特殊な能力を持つ子供が産まれ、その能力ゆえにアルンハルト公爵家の次男として転生者を飼っていたという事だ。
それが当主になった。
つまり、ザンクト皇国の中核は転生者と転生者受け入れ賛同派に一気に入れ替えられたのだ。
しかも、ツェーリンゲン公爵の残党によって初めて女神エーオストレイルを再降臨させて、その上に神の子は転生者である事を知った。
この事に対するジン国王の恐怖がどれほどのものか。
今まで馬鹿に仕切っていた、あの皇太子から皇帝になった現皇帝は自分が三公爵家の閨閥に阻まれて動けなかったのを息子の第一皇太子を使って一気に始末したのだ。
そして、転生者と向き合う事でザンクト皇国の皇帝は、実は騎士よりも戦で有用な弓兵を主体にしたグルクルト王国の軍制をさらに一歩進めて、騎士などが存在しない軍制に一気に移行し始めていた。
彼らのグルクルト王国にも騎士がおり、それらも勢力を持ち、残念ながらそれを超える騎士を無くす運用はできなかったのだ。
彼らは転生者と付き合うために、その未来像はいずれと想像していたが、この世界の状況を考えて、そこまで考えていなかった。
まさか、騎士がいない世界まで一足飛びにザンクト皇国が進むと思わなかったのだ
まさか、弓兵の集団運用は考えていたが、騎士のいない歩兵の集団運用までは軍制の進んでいるグルクルト王国ですら考えていなかった。
それを誰かがあっさり実行した。
最初は皇太子付きのアレクシスを疑った、次はシェーンブルグ伯爵家の誰かを疑った……伯爵がしたとは思えなかったのだ。
だが、違った。
それは恐るべき事実だった。
シェーンブルグ伯爵家から来た皇太子妃がやったのだ。
しかも、転生者であり、まさかの女神エーオストレイルの降臨している相手である。
だからこそ、側近の執政官であり転生者でもあるクオウに実態を調べさせたのである。
クオウは転生時のギフトを持ち、『封印師』としての力を持っていた。
それゆえ、調べれたのだ。
この最悪の情報が本当かどうかを。
それを本日、クオウ・ベルメールが報告に来るというのでジン国王は緊張していた。
クオウは二メートル近い高身長の大男で怜悧な顔で無表情であった。
それが国王の前に跪いて深く礼をした。
深く頭を下げているはずなのに、高身長の為にそうは見えなかった。
「結論を聞こうか? 」
ジン国王が流行る気持ちを抑えきれずに即座に聞いた。
「女神エーオストレイルは降りていました」
クオウはあっさりと告げた。
それで、ジン国王は悲痛のあまりに顔を伏せて黙り込んだ。
世界の戦争の歴史を進める異端の転生者に、女神エーオストレイルが降臨している。
それはグルクルト王国にとって最悪の答えだった。
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