第2部 第4章 真実は

 俺の為に用意された婚約者の部屋に別のメイドに案内された。


 部屋に入ると、天蓋のあるベットに座り込んだ。


「お召し物が皺になりますよ」


 そうアメリア・パーターが話す。


「……知っていることを全部話してほしい。恐らく、姉はある程度、君達に話しているはず」


 そう俺がアメリアとニーナに聞いた。


「……姉君からは見たままで判断させなさいと言われてますが……」


 アメリアが少し迷ったように話した。


「いや、見たままのうちだと思う。情報が少なすぎる」


 俺がそう聞いた。


「……わかりました。先代皇帝が欲したのは、グンツ伯爵家がザンクト皇国の創業時から与えられていた全ての鉱山の権利の剥奪です」


 アメリアがそう答えた。


「やはり、そうか。それでわざと第一皇妃にしたんだな」


 日本の天皇家か藤原家か忘れたが、まだ朝廷が力を持っていた時の政敵とかへの必殺の潰し方が除きたい相手を出世させることだったと聞いたことがある。


 つまり、出世して格上げする事で朝廷内のやっかみやその政敵の敵を増やす事で潰すのだそうだ。


 下の位であれば目立たないが、上の地位に行けば行くほど、今まで見えなかった政敵の政治的な粗というか粗忽さが見えてくる。


 それを政敵の敵達に利用させて潰させるのだ。


「となると。うちも危ないのかな? 」


「その辺りはシェーンブルグ伯爵の皇帝への取り込みは完璧だと兄は言ってましたが……」


「それでも保険をかけたのか……」


 ニーナの言葉で俺が呟いた。


 皇帝が男の娘に興味があるのか、もしくはそれをネタに次代のシェーンブルグ伯爵家を頭が上がらないようにするのか、それは良く分からないが、いろいろと手を打っている結果がこの男の娘計画なのかも知れない。


「転生者に関しては、シェーンブルグ伯爵家のノウハウがありますから、なかなかにそれを皇家が奪うのは難しいと思います。グンツ伯爵家は当主が皇家に娘を皇妃を出す事が出来るのが分かって、うっかりと鉱山の責任者や精製の責任者などを明かしてしまいましたからね」


「そんなミスを……」


 採掘と精製の技術を持つ技術者を奪われては終わってしまう。


「現在のグンツ伯爵がいけないのだと兄も言ってました。性根を据えて皇家と言う魑魅魍魎の世界に入る覚悟をしているのではなく、単に名誉だけを追い求めて、自分が奪われる側の覚悟をしていなかったと」


「では、あの二人は被害者なのか……」


「いやいや、魑魅魍魎の世界に入って、そんな被害者だの甘いことを言っていては駄目だと、兄が……」


 ヨハンは相変わらずキツイ事を言うなと思う。


 実際、どこの王家も皇家も魑魅魍魎の住処だ。


 近づけば名誉はあるけれども、そういう場所と距離を置くのは大切だと思う。


 身の程知らずは地獄に落ちるという事だ。


「どうなさいますか? 」


 ニーナが俺に聞いてきた。


「いや、まだ考え中だ」


「良くお考え下さい。貴方がこの国の未来を握っているのですから」


 アメリアがそう微笑んだ。


「いやいや、考えすぎだよ。そもそも<神の子>ってなんだ? 」


「……」


「いや、教えてくれよ」


「シェーンブルグ伯爵家の御子に転生者を召喚する計画は隣国の圧迫と皇国の国家としての老化で傾きかかったザンクト皇国の斜陽を何とかするために始めました。これは現在の皇帝の肝いりでもあります。まあ、今は男の娘計画で盛り上がってずれてますけど……」


「何、それ? 」


「姉君によると、シェーンブルグ伯爵様も皇帝も異界の文化を調べるうちにドハマリと言うのですか? あちらの言葉だそうですけど……そうなってしまって、結果として話がずれてしまったとか……」


「どんだけ……」


 俺が呆れる。


「その国家の再建のために召喚されたのが貴方様方です。本当武力と知略と合わさった人物を召喚したはずが、双子でそれが分かれてしまったのだと兄が申しておりました。で、兄は男の子で産まれたお嬢様を非常に期待してまして、まさか、こんな計画に巻き込まれるとはと痛憤しているわけです」


「ああ、そうなんだ」


 俺がヨハンの話をニーナに聞いてあきれた。


 だが、知略とか……。


 実戦経験無いし、間違えてんじゃないのかなと思うが。


 ただ、一つだけ、俺の気配を感じるチートが凄いのは確かだ。


 つまり、天守閣もそうだが上空から敵の動きを見るのが大事だったように第一次世界大戦の頃は気球がそれをやっていた。


 戦の場で俯瞰で全部見えると言うのはしょぼく見えても圧倒的チートだ。


 こないだの襲撃の後に、スキルが上がったのか、全体の俯瞰で分かるようになってきた。


 事実上、最終的には人工衛星で相手を把握しているのに近くなりそうな気配である。


 敵の弱点とか敵の指揮官とか把握できる。


 それだけでどれだけ次元が違う力なのか。


 そして、戦史オタクの知識も馬鹿にならない。


 多分、俺を殺せるとしたら、姉かあのエードハルトくらいだろ。


 だって、殺そうとしても強いし逃げるから。


「姉君は一緒に転生なさった貴方に最大の信愛の情を抱いております。だから、貴方の動く方向に私も動くとおっしゃっておられるのです。それはシェーンブルグ伯爵だけでなく、このザンクト皇国とこの世界に関わる大きなことなのです。ですから、それを良くお考えになられてくださいませ。それが皇国に住む民としての私の願いです」


 アメリアがさらりとプレッシャーをかけて来る。


 それで、そのまま考え込んで、ベットで寝てしまった。


 勿論、衣装が皺だらけになって次の日、無茶苦茶アメリアに怒られたが。


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