最悪の冷血皇太子の元に男の娘(内緒)として、俺が嫁ぐことになりました。

平 一悟

プロローグ

「好きで、この家に産まれたわけではないのに」


 松崎祐介は今日もクラスで浮いていた。


 いつだって、彼はクラスのものから避けられていた。


 それは父親の会社のせいであった。


 祐介の父親は新興の企業を経営していて、やり手だが徹底的に社員を酷使し、殆ど見返りを渡さず、そして普通の会社と比べて法律スレスレのえげつないことをして巨大化していっていた。


 それでも、それだけなら特にまだ問題は無かったかもしれない。


 だが、そうはならなかった。


 祐介にはずっと律と言う親友がいた。


 彼の父親は祐介の父親の会社の社員だった。


 だが、そのことで本人に変な事をしたことも無いし、互いに親の仕事は触れないようにしていた。


 そして、二人は仲が良かったが、ある日祐介の父の酷い仕事の仕打ちで律の父親が自殺した。


「お前は悪くないから」


 そう涙を流す律に祐介は何も言い返せなかった。


 律は母親の実家に引っ越したらしい。


 祐介は何も言えなかったし、何も出来なかった。


 自分の父親が糞なのは知っていた。


 だが、それは息子の祐介には止めれなかった。


 父親は家族の言う事など聞かない。


 それどころか、よそに愛人までいる。


 家にも帰ってこないのだ。


 そして、父親はそんな事件は全く気にしないでさらに会社の規模を大きくしていった。


 そんな事情を知ってしまったクラスメイトは誰も祐介に話しかけてこなくなった。


 元々、内向的で昔の戦史とか読んだりしてるのが楽しみの祐介は、ますます戦史の英雄たちに心をはせて内に閉じこもるようになった。


 クラスでも浮いて、家にもいる場所が無い。


 父親と母親はそんなわけで冷え切っていた。


 律とも連絡を取る勇気も無くて、ますます行き詰っていった。


 だから、ある日、心臓が締め付けられるような苦しみに倒れた時に、凄まじい激痛と恐怖よりも、やっと死ねると思った。


 そうして、目が覚めた。


 そこは所謂異世界だった。


 しかも、その世界の貴族であるシェーンブルグ伯爵家の双子の弟であるマクシミリアン・フォン・シェーンブルクとしてである。


 はっきりクラスで浮いていたと言うより、最後の辺りは引きこもりみたいになっていた祐介は、即座に異世界転生と言う奴かと理解して苦笑した。


 まさか、自分のようなものにと思ったからだ。


 だが、その後に、本来のマクシミリアンの記憶と自分の記憶の統合が始まった。


 そこで、知ってしまった。


 この世界では実はそこそこ異世界転生が起こる。


 だが、中途半端な知識でマヨネーズを作ってサルモネラ菌で人々を悶絶させたり、作った事も無い黒色火薬を作ると知識だけでやって爆発炎上させて大火事にしたり、異世界から来た人間は鼻つまみ者であった。


 だが、それでも異世界知識や文化は貴重で、それを独占するために、このザンクト皇国では全て捕獲されて監禁されて一生閉じ込められたまま研究させられると言う悲しい現実があった。


 そして、よりにもよって、ザンクト皇国でその逮捕や管理を行うのはシェーンブルグ伯爵家であった事を。


 つまり、取り締まりをする家に嫡男として転生してしまったのだ。


 そして、さらに記憶が統合されて思い出すと、ますます怖い話が分かる。


 父の弟も転生者と分かった途端にいきなり捕縛されて、転生者の塔に閉じ込められてしまった。


 その引き摺られていく泣き叫ぶ姿を震えながら見ていたこの世界の自分を……。


 しかも、叔父はそのまま戻ってこなかった。


 それで、心底ぞっとした。


 その時のマクシミリアンの年齢は12歳。


 ほっそりとした手が見える。


 そして、どうやら、木から落ちて気絶してベットに寝かされている事も思い出した。


 そんな、マクシミリアンに怒りを感じる。


 こいつが木から落ちなかったら、俺は転生者であると思いだしたりしなかったのに。


 そして、ベットの近くの大きな鏡の姿見を見てさらに驚く。


 どう見ても女の子……いや美少女みたいな姿である。


 そっと自分の下半身を見て、あるのを確認した。


 どうやら、性別は間違いなしに男のようだ。


 だが、女の子みたいな容姿だった。


「あら、やっと起きたのね? 」


 そう部屋に少女が入ってきた。


 姿見の鏡と同じ姿の少女だった。


 記憶の統合が間違いなければ、双子の姉であるシャルロッテ・フォン・シェーンブルグであるはずだ。


 その可憐で美しい少女はにっこり笑った。


 何という天使のような笑顔だとそう思ったら、記憶の統合で思い出した。

 

 思い出したくないけど恐ろしいことを思い出してしまった。


 姉は天上天下唯我独尊みたいな絶対的なわがままで、その容姿を最大限に使って父をも手玉に取る怪物である事を。


 自分が少女のように髪が長いのも姉のシャルロッテの命令であった。


 それでも、必死にマクシミリアンは抵抗していたようで、少女のような恰好をすることだけは拒否していたようだ。


 だが、それ以外は姉のわがままに付き合って酷い目にあい、今回の気絶は実は姉の命令を聞いたばかり慣れない大木に登って落ちたのが分かってきてうんざりした。


 前世で父親のせいでひどい目にあったのに、なんでこっちに転生してまで、こんな目に合うのかと……。


「……」


 姉のシャルロッテがベットに寝ている俺の目をじっと見る。


 俺がどうして良いかわかんないから、姉の目を見返した。


 互いにじっと見て、姉がクスリと笑った。


 それはすごく愛らしい微笑みであった。


「ねぇ、知ってる? なんで木登りさせたか? 」


「え? 」


 俺は怪しまれないようになるべく喋らないようにするつもりだった。


「あのね。転生者の記憶が戻るときって大体、うちのシェーンブルグ伯爵家の研究だと病気か木登りして落ちて気絶したときなの」


 そう姉が風邪を引いたら必ずマクシミリアンの近くに入り浸って移したり、何度も何度もわがまま言って登れそうにない木に登らせていたマクシミリアンの記憶がさらに統合されて流れてくる。


「そんな、馬鹿な意味が? 」


 俺が思わず叫んでしまった。


 その時の姉のぞっとするような笑みは生涯忘れないだろう。


 してやったりと言う顔で俺を見ていた。


「私さぁ、叔父さんがそうだった時にも前から怪しんでいたのよね。それで高いところから落としたりして、いろいろやって転生者だってわかったんだけど。やっぱり、貴方も転生者よね? で、記憶も戻ったのよね。マクシミリアンならそんな言い方しないもの」


 そう姉のシャルロッテがくすくす笑った。


 俺は本当にぞっとした。


 

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