【コンテスト版】簒奪王と星の姫
平本りこ
第一幕
0 神の囁き
愛おしく哀れな末の息子。あの子はいつか、私が織り上げた世界に牙立てる。
幾度も糸を紡ぎ直し、縦糸と横糸を入れ替え、運命を動かしてみたけれど、あの子が世界の破壊者となる未来は変わらない。それならばせめて、彼を止めるための強固な結び目を作りだそう。
交わるはずのなかった二本の糸をより合わせ、一つの壮大な模様へと織り上げる。それは大きく堅く結ばれた、唯一無二の縁。
人の子はそれを、愛と呼ぶらしい。
※
大神が糸を織り世界を創造した時、四柱の神が生れ落ちた。
空には
空と海と大地がこの世界を形作るように、三柱の神々は、決して分かたれてはならぬもの。三位一体となり、古くより信仰を集めてきた。
しかし平穏な時代は、突如として終わりを告げる。
人の子は同族同士での戦いを繰り返す。空に血飛沫が舞い、海に亡骸が浮かぶようになる頃には、神はその力の断片を善良な人の子に託し、空の果てと海の深淵に隠れてしまう。
それから
やがて
時は経ち、三神信仰の最後の寄る辺であった神殿で内部抗争が起こり、神の国サシャは分裂。
対するサシャ神国は、名を聖サシャ王国と改めて、神の時代はここに終わりを告げた。
それから六十年余りが経つ。神の指先により合わされた二本の糸が今、出会いの時を迎えようとしていた。
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