第6話
時間は少しさかのぼり、昨晩のこと……
私は明日にも魔王城へ乗り込めるという場所で、姫様に呼び出された。
テントに入ると相変わらず顔色が悪い姫様から「あんたはいいわね」「脳筋が羨まし」などと苦言が続いた。そして2~3日ほど休むようにアレース様に提案するようにと命じられた。
「それはまあ、そうですね」
姫様の様子をみれば、それも仕方がないと思ってしまう。だが姫様はさらに私に言い放つ。
「私は大丈夫と反論するから。だけどちゃんと休めるように押し切ってね」
「えっ、なぜそんな……」
「あんたはバカね。そこで私が『はいそうですか』って言ってたら恰好がつかないじゃない!あの男のことだからあんたが『実は生理なんですー』とでも言っとけば配慮してくれるわよ!」
なんてことを、と思いはしたが姫様の命である。断ってしまえばたとえ魔王討伐が無事終了したとしても、私の家の存続も怪しいかもしれない。しかしアレース様に……告げなくてはならないなんて……
すでに女を捨てている私でも、さすがに男性にそれを告げるのは抵抗がある。その相手がアレース様であるのなら尚更伝えづらいというもの……
もちろん私はそれを薬で抑えている。この旅の邪魔になることはあってはならないと、事前にそういった薬も用意して常用していた。
しかしやらねばならないのだ……何より私を大切に育ててくれた両親に報いるために……
そんなことを思っている間に、姫様から「早く出ていって」と促され、テントの外に出る。テントから出ると、ふいにアレース様と目が合い恥ずかしくなってしまう。
テント内は防音の魔道具も設置されているため、会話は聞こえていないだろうが、心がざわついているのを感じていた。
このまま姫様を気遣って数日休むことを提案しようか?いや、姫様が見ている前で提案しなくてはならないのか……憂鬱な気持ちを胸に、アレース様の隣に腰を下ろした。
◆◇◆◇◆
俺は遂にこの魔王城へと入っていく。
途中、少し手強い人型の魔物とも戦った。
四天王やら側近やら真の側近やらとほざいていた奴らと遭遇したが、俺とディアーナでそれほど時間を掛けずに滅していく。体の調子がすごぶる良い。一応ルーナは魔力を温存して、魔王に全てぶつけてもらおうと考えていた。
そして何より、今の俺は魔王城前にとどまった3日間で新たな技能スキル、聖者の剣に炎を纏わせる『炎殺剣』という技を習得した。切り口が再生せずやけどによる二次ダメージも与えることができるので、非常に使い勝手が良い。
ディアーナもかなり興味津々といった様子でその技を見つめていた。目を輝かせながら、矢継ぎ早に質問をしてきたのには驚いた。
そして今、俺たち三人は重厚な扉の前に立ち、大きく深呼吸をした。
二人にも目で合図を送る。何時でも大丈夫とその表情が言っているようだった。そして俺はその扉を蹴り飛ばす。
ひしゃげて吹き飛ぶその扉が、左右に分かれ大きな音をたて床を滑っていく。
俺は無事吹き飛んでよかった。と内心ほっとしていた。
蹴り飛ばしたのもちょっとした思い付きだった。思いついたら蹴らずにはいられなかった。これで『扉が頑丈すぎてびくともしなかった』となったなら……恥ずかしくて死ねる。
そんなことで苦笑いしてしまう。折角の魔王とのご対面だというのに、今までの道のりでたっぷりと付けた自信が、俺の心に余裕を生んだ。負ける気はしない……
そして改めて前を向く。目の前には、人族より少し大きい程度の……美しい女、だかその目は赤く肌は黒い、そして頭には2本の大きな角があり、背中には蝙蝠のような大きく黒い羽が見えていた。
これが『魔王・ティアマト』……
今までの魔物とはまったくレベルの違う存在だということを確信して、手に握る剣に一層の力を籠める。
「よく来たのお……ニンゲンッ!」
魔王は両手を上に掲げると、黒く大きな魔力の塊のような物体がバチバチと言いながら発現し、こちらへ投げつけられ高速でむかってきた。
即座にルーナが『氷槍雨』と叫ぶと、無数の氷の槍がその攻撃を打ち消していった。ルーナの最大の攻撃魔法であった。魔王の放った黒い魔法をかき消し、そのままの勢いで魔王に向かっていく。
しかしその攻撃は、魔王までは届かない。魔王が左手を軽く横に振れば、その氷の槍は掻き消えていく。
ルーナはさらに全魔力を籠めたであろう『氷槍雨』が魔王に向かう……がしかし、それはまたも片手で払われる。魔王にあまりダメージはなさそうだ。魔王が指先をふって少しだけ痛そうにしていたことと、精々魔王城の城壁が破壊され、空から光が差した程度であった。
悔しそうな表情のルーナの肩に手を置き「大丈夫だ」と言葉をかける。
そしてルーナが「後はお願い」と懇願するような顔に笑顔で返すと、俺は気合の声と共に駆け出した。魔法が効かないなら剣でねじ伏せる!今までもそうしてきたのだ。
そう思って飛び出すと、すぐにディアーナも反応し、反対側に回り込むように駆けていく。
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