第2話

私はティターン・ルーナ。この国の第一皇女。言うなれば、お姫様。


王族の血筋からか、生まれた時から高い魔力を持っていた。学園でも首席でも魔道科を卒業する予定であった。このままどこかの高位貴族から求婚され、地位と見目に優れた誰かを選び、結婚し、子を宿し、そして順風満帆な人生を送ると思っていた。


でもその未来予想図は果敢なくも崩れ去る。


突如北方に巨大な城が出現してから、その周辺から魔物が少しづつではあるが強くなっており、人々の生活に暗い影を落としていったという。人々の暮らしなんて王族である私には何の関係ない。その時はまだそう思っていた。


そして数年後、あと少しで学園を卒業する年、魔王という存在がいるという報告が冒険者ギルドから継げられた。そしてそれと同じくして、勇者と呼ばれる存在が確認できたとも……


父であるこの国の王は、私に勇者と共に魔王を倒せと命じてきた。最初は心が躍った。勇者という力強い言葉にドキドキとした。

しかし実際会ってみると、そのドキドキも消え去った。目の前の勇者と呼ばれた男は、無骨なただの強い平民であった。


父は私に少し豪華な道具袋を持たせた。

身の回りの物を入れるのに使えというその道具袋には、すでに隷属の首輪という魔道具が入っていた。


「勇者が魔王を倒したその時は、躊躇せずその首輪を勇者に付けろ」


魔王を倒す男はそれだけで脅威なのだと理解した。それには賛成せざるをえない。


「お父様。なぜ今すぐにこの首輪を嵌めてしまわないのですか?勇者を隷属させ、その上で魔王を倒させれば、いいのではないでしょうか?」

「それだと駄目なんだ。その首輪は強い魔法を抑え込んでしまう。それでは魔王はおろか、ちょっと強い魔物が出てきても戦えないだろう……だからタイミングを間違えるんじゃないぞ!グウィディオン家の小娘、ディアーナとかいったな。あれと協力して必ず魔王を倒し切った後に、絶対にこの首輪を嵌めてやるんだ!」


私は全てを理解して小さくうなずいた。


うまくやらなくては……そして魔王討伐の手柄を独り占めして、なんなら王国初の女王という手もある……私の未来予想図は変わってしまった。だがそれがいい!予想していたより何倍も良い未来が描けそうだ。

ルーナは一人、新たな未来予想図に心を躍らせ、拳を強く握りしめていた。



◆◇◆◇◆


グウィディオン・ディアーナは王国内を進む荷台の上で、ぎこちなく手を振っている……

恥ずかしい……


私はグウィディオン男爵家の長女として生まれた。

男爵家といっても、実家は貧しい領土を何とか切り盛りしている、いわゆる貧乏貴族というやつだ。


そんな家に生まれた私は、幼いころから領土内の森を駆け回っていた。10才にもなると戦士としてのジョブが発動して野生の熊など、そういった危険な動物を、素手で簡単に倒すこともできるようになった。

我ながら末恐ろしいものである。


そのころから、物語に出てくるような騎士の話に憧れを抱くようになった。そしてその事を父も母も喜んでくれた。弱小貴族とは思えない力を発揮して、父が兵士ではなく騎士として私をねじ込んでくれた。

その事に感謝をしつつ毎日必死に訓練に明け暮れた。3年の月日が経ち、18の頃には気づけば騎士団長という立派な地位に就くことができた。


周りの騎士からは「女が生意気だ」「女のくせに」そんな文句が聞こえてきたが、それらは全て叩き伏せた。ここでは力が全てであった。もっと権力闘争などがあるのかと思ったが、思いのほか単純であった。

私の周りには親衛隊のように私の志を理解してくれる者たちが集まっていた。それが何より嬉しかった。このまま騎士としての職務を全うして、その騎士の中の誰かと恋に落ち、そして家庭に入る乙女チックな夢も見ることもあった。


そんな私に勇者のお供という話が舞い込んできた。


騎士ではなく魔王を倒すパーティーの一員として働く?思っても見なかった夢のような話に胸が激しく高鳴った。

私は騎士が王に忠誠を誓い敵を討ち滅ぼす物語が大好きだった。だが、勇者が魔王を倒す夢物語にだって憧れはあった。そんなことは自分とは無関係の夢物語だと思っていた。それが現実となるのだ。私は二つ返事で引き受けた。


そして現在……なれない手つきで手を振る私。

ふと横を見ると、勇者という男もまた引きつった笑顔で手を振っていた。別の意味で少しだけ胸が高鳴った。できることならこんな人と添い遂げたい……


でもそれは叶わないのは分かっている。魔王を倒してこの人は横の姫様と結婚するのだ……私はそれをサポートする。まあ人生そんなものだ……せめてその間に何か思い出でも……


私は禁断の何かにふれないように意識を集まった民に戻してまた照れるのであった。

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