リザードンと人の姫

@tamager

第1話 リザードン

 姫が生まれた。幼名をセシルと名付けられた。


 前王妃、つまり姫の祖母にあたるアイリーン・ラーンの意向によって養育と身の回りの世話は彼女の最も信頼する家臣にゆだねられることになったのだが、その家臣というのはリザードンであった。そう、いわゆる二足走行するトカゲの種族である。


 背丈は人よりは高く人の言葉を理解し会話もできそして何よりも主人に忠実であった。


その点においては人間がリザードンに劣ると言わざる得ないと言う事は何とも残念な事であった。


 リザードンは誠実さに加えて何よりも力が強く兵士としても重宝される存在であった。


 リザードンの名はムルという。ムルにはつがいのメス、リムルと共に暮らしており彼らはリザードンの子を二人もうけていた。


 アイリーン・ラーンに任命されたリザードンに早速王宮から使いの者が遣わされた。


 「リザードン・ムルとその奥方リムルは国王の命により王宮にて姫の世話役の任を与えられた。


明日の早朝七の時に夫婦で王宮に出仕するように。」


 ムルは恐れ入りながらも使者に王宮に出向くことを約束した。


 彼の奥方のリムルには姫の身の回りの面倒を見るようにとのことだがリザードンのメスは非常に家事全般に優れておりまさに適任と言えた。


 だが、王の周囲には当然そのことが気に入らない者達があちこちに存在することも周知の事実である。


 そんな不穏な空気が流れる中で、姫の25歳年長の兄王子メナス・ラーンはリザードンに好意的な意見を持つ一方、23歳年長の兄王子ルイス・ラーンは逆にリザードンの登用には否定的な意見を持つという兄弟王子間でそれぞれ意見が対立することから王宮での派閥の勢力争いの火種となっていた。


 その火種がまさに大きな渦になっていくきっかけが姫の養育係にリザードンが任命されたことであるのだが、両王子がそれぞれ国境の警備に出ている時にアイリーン前王妃の突然の発表があったことから二人の対応が遅れてしまい、有象無象の類が好き勝手に動き回ってしまう事となったのである。


 メナス王子は北側の国境の警備についていた。そこに彼の部下達が王子と交代するためにやってきた。


 メナスが警備についてからまだ一日。突然の部下の交代に彼は良くないことが起きる前触れではないかと一瞬不安をよぎらせた。


 隊長のカイル・ベイルが前王妃の発表のことを王子に伝えた。


 「何故このような時に。ルイスにも交代要員は向かっているのか。」


 思ってもいなかった報告に弟王子の一派の動きが気になった。


 ルイス王子は西側の国境の警備についているはず。


 「ベイル。弟の動向を誰かをやってみてきてくれ。


その報告は王宮に向かう途中でうけることとする。


それと隊の半分をムルの棲み処に向かわせてくれ。


 メナス王子は早速行動を起こしたが、その表情には不安の色が見て取られた。

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