第18話 勇者パーティーと露見

 どれくらいの時間、地面に横たわっていたのか。

 気づくと僕は猫のように丸まっていた。


 ゴーシュは大の字でいびきをかいているし、レイヴはうつ伏せで頬を地面にすりすりしている。

 少しだけ期待してイリスを探すと、彼女は大木に背を預けて寝息を立てていた。


 立ち上がろうにも上手く足に力が入らない。

 やっぱり影魔法の連発は体への負担が大きすぎる。

 そもそも、僕は影魔法というものが何なのか知らないまま使用しているから、それがいけないのかもしれない。


「お目覚めかな?」


「あれ、起きてたの?」


「ユーキが起きないから、みんなで二度寝してた」


 なんて斬新な。

 僕を背負って町へ戻ってくれても良かったんだよ。


 それから火を焚き、簡単なスープを作って4人揃って腹を満たした。


「ユーキッドはあいつに気づいていたのか?」


 口火を切ったのはゴーシュだった。

 さすがは特攻隊長といったところか。


「接触のギリギリで気づいた。【危機察知】のスキルに引っかからないように魔力と殺気を抑え込んでいたみたいだ」


「以前、ユーキさんは魔物と戦闘をしたことがあると言っていましたが、さっきのは強さでいうとどの程度ですか?」


「あれは魔人だよ。魔物なんかとは比べ物にならない。僕一人では勝てなかった」


 イリスは質問したくせに驚く素振りを見せなかった。

 多分、知っているんだ。魔人の強さと狡猾さを。


 でなければ、僕の脇腹を回復する前に解毒するわけがない。

 魔人の戦い方を知っているからこその治療を無意識的に施したのだろう。


「一緒に逃げれば良かったのに」


 レイヴにそう言われても、僕には逃げられない事情がある。


 元カノの頼みは叶えてあげたいじゃないか。


「だから殿しんがりだってば。あれは斥候みたいなものじゃないかな? 魔王城に近づいているから、これからも魔人と戦うことになると思う」


殿しんがりなんて、よく言う。あの目は死を覚悟したものだ。俺たちが来ていなければ相討ちを狙っていただろ?」


 うぐっ。

 鋭い。レイヴってたまに確信を突いてくるんだよな。


 だけど、その程度でポーカーフェイスを崩すような体たらくは晒さないぞ。


「まさか。あの暗闇に紛れて逃げる予定だったんだよ」


「あの魔人って奴は、なんでオレ様たちがここを通ると知っていたんだ? どう考えても待ち伏せだぞ」


 うぐっ。

 ゴ、ゴーシュのくせ。

 だけど、まだ大丈夫。大丈夫だ。


「勇者パーティーが魔王討伐に出発したって情報を掴んでいるんだろうね。あんなに派手な壮行式をされたわけだし」


「そうか? オレ様たちの動向がバレているような気がするけどな」


「監視されてるとか? それとも間者を疑っているの?」


「お前、今日はやけに喋るじゃねぇか」


 やっちまった。

 まだ疲労感が抜けきっていないから頭が回らないのか、するすると言葉が出ていってしまう。


「ユーキさんが最後に使ったのは魔法ですよね。あれはなんですか? 魔法使いの私も知らない魔法でしたよ」


 うぐぅ。

 僕の言い訳ボキャブラリーはもうゼロだよ。


 上手く誤魔化す自信がなくなった僕は、ほんの少しの真実と嘘を織り交ぜながら自分の魔法について説明することにした。


「あれは影魔法と言って、僕と……友達とで必死に会得したものだよ」


「闇魔法の一種ですか?」


 イリスは眉間に皺を寄せながら、疑うような眼差しで僕を見てくる。


「分からない。僕はあの魔法について詳しく知らないんだ。ただ、使えるから使っているだけ。基本的には使わないようにしている」


 考え込むイリスの隣で、ゴーシュは重々しく口を開いた。


「お前が一番、怪しいんだよ」


 それはそうだろう。だって事実だもん。

 ゴーシュに指摘されると思っていなかっただけで、こういう日が来ることは予感していた。


「お前、目的も願いもなく魔王討伐に向かってるんだろ? それに謎の黒い魔法を使って。夜はコソコソと居なくなって。オレ様たちの邪魔をしようって魂胆じゃねぇだろうな」


「違うっ!」


 思わず声を荒げてしまったが、これだけは否定しておきたい。

 そんな風に思ってしまった。


「僕はみんなを売ったりしていない。僕の目的も願いも今は言えないけど、気持ちは同じのつもりだ。影魔法のことを黙っていたのは悪かったと思っているよ。ごめん。だけど、これだけは信じてほしい。僕は勇者パーティーの一員だ」


 性に合わない熱弁をしていると、3人全員が僕を見ていた。


「冗談だよ、ユーキ! 君の真剣な顔を見てみたかっただけなんだ」


 レイヴは手を叩きながら爆笑し、イリスもくすくす笑っている。

 ゴーシュはそっぽを向きながら鼻の上をかいていた。


「へ?」


「ユーキの本心を聞きたかった。ゴーシュは損な役回りを買って出てくれたんだ」


「わざわざ言わなくていいだろ」


 悪態をつくゴーシュの耳は真っ赤だった。


「僕を騙したのか。いや、そもそも僕が悪いからね。今回は許してあげるよ」


「なんで、おめぇが上から目線なんだよ!」


 冗談混じりに言うと、ゴーシュがさっきとは違った意味で顔を真っ赤にしながら立ち上がった。


「ユーキの目的はいずれ教えてくれるのか?」


「その時が来たらね。とりあえず、休める場所を探したいな」


 腹ごしらえを終えた僕たちは道を引き返して、ゆっくりと過ごせる宿屋を目指した。


 密かに魔王(元カノ)を討伐しないで、レイヴたちの願いを叶えられないか模索していることを打ち明ける日が来るかもしれない。そう予感しながら彼らの背中を追った。

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