第2話『変形』のゴーレム
「しかし本当にびっくりだよ! デウス様だと思ったら、心は異世界から来たおっさんだったなんて。あっ、そこの村に寄って! 見て欲しいものがあるんだ」
城まで少年を送るために、俺達は空の旅を楽しんでいる最中だ。
それにしても俺が神様じゃないからって少年の態度も変わり過ぎだろ。仮にも王子様だよね? 出会った時みたいに、もっと丁寧な言葉使おうよ。
この姿で村に入ったら大騒ぎになるだろうから、少し離れた所に少年を降ろす。
(村までの道に危険は無いみたいだけど、もう夕方だし気をつけるんだよ)
「わかってる。そこで待ってて。ギンタが村に入れるよう交渉してくる」
少年はそう言うと村の方へ走って行ってしまった。
少年に本名は銀太だと教えてから、ギンタと呼び捨てだ。
デウスは神様の名前だし、前世の名前で呼んでくれとお願いしたのは俺だけど、35歳にもなって子供から呼び捨てにされるのもどうかなと思う。俺の心は狭いのだ。
少年を待っている間に自分の姿形をきちんと確認しようかな。確かあっちに湖があったし、鏡の替わりになるだろう。
『司令官からの移動許可がありません』
頭の中で声が聞こえたと同時に、体がまた石にでもなったかのように動けなくなる。少年が言った待っててって命令なの? 許可が必要なの?
(少年、移動許可ください)
(ギンタ? 僕の声、聞こえる?)
(聞こえるてるよ)
(この通信魔法ってギンタからの一方通行じゃなかったんだ……。交渉が終わったら呼ぶから、好きにしてて)
『司令官からの許可を確認しました』
おお、今度は動ける。少年を操っていた男も言ってたけど、ゴーレムは主人の命令通りに動くのが常識みたいだったな。
俺の場合は古代文明のゴーレムだからか、人格があるせいか、はたまた別の理由なのかは解らないけど自由に動けた。
だけど、今みたいに主人に許可を求めないといけない事もある。俺の場合は主人ではなく司令官か。
それに深く考えてなかったけど、時々聞こえる頭の中の声ってなんなんだろう。漫画やゲームに良くあるヘルプメッセージみたいなもんかな。
(交渉終わり。来て)
少年は有能だったみたいで交渉はあっという間に終わったみたいだ。湖に行く時間はなかったな。
村の入り口に着くと、村長らしき老人と一緒にいた少年が大きく手を振って迎えてくれた。可愛い。
「こ、これが王子が使役した新種のゴーレムですか! 素晴らしい!」
「かっこいいだろ。ギンタって名前だ」
少年はドヤ顔だ。可愛い。
「自然発生したゴーレムと契約したとお聞きしたと時は、正直、嘘だと疑っておりました。魔物は契約さえできれば主人の命令にしか従わず、大人しいと聞いております。これならば村に入れても大丈夫でしょう」
俺は古代文明の時代に作られたゴーレムなんだけど、少年は嘘を付いたのか?
少年を見ると俺に何度もウインクをしている。可愛い。とりあえず話を合わせろっていう合図かな。
(村長さん、村へ入る許可をありがとうごさいます)
村長さんは俺の周囲をグルグルまわりながらペタペタ触ったり、コンコンと叩いたりしてる。返事ぐらいしてくれてもいいのに。
他の村人達は俺が怖いのか腰が引けてて、近づいてもくれない。
(ちょっと、お聞きたいんですけど、自然発生したゴーレムと主従契約ってのは普通は難しいんですか?)
「ゴーレムはね、錬金術師が魔法で作るのと、自然に生まれてくるのがいるんだ」
と少年が答えてくれた。
「錬金術師が作った場合は、生み出すときに主従契約の魔法も組み込むから、自我が無くてもそのまま使役ができる」
へー。俺の場合は少年が持っている腕輪、起動キーって言ってたっけ? たぶんそれに主従契約の魔法が組み込まれてるのかな。
「魔力溜まりとかで自然に生まれた場合は近くの生き物を襲ったりするけど、自分を守る本能があるだけで自我はない」
(ふむふむ)
「自我がないと言うことは、その辺の石や壁と変わらない。ただの石や壁と主従契約なんて結べないからね」
なるほど、少年は物知りだな。村長は俺の身体を舐め回すように見てる。ちょっと怖い。
(村長さん聞いてる?)
「王子、このゴーレムちっとも声を出しませんな。本当に自我があって話も出来たのですか?」
あれ? さっきから声を掛けてるけど。もしかして俺の声は少年にしか聞こえてない?
「村長さんすいません。僕にしか声は聞こえないみたいです」
「なんだ詰まらん。王子よ、ならば通訳をお願いしますぞ」
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