ルナ(5)
四方八方からの熱線を乱数機動と直感を駆使して、キース達は
二人ともルナ程ではないとはいえ、過酷な戦場を戦い生き抜いてきた精鋭だ。容易にやられたりなどはしない。
……とはいえ。圧倒的な物量相手に、二人はかつてない苦境に立たされていた。
「
「了解!」
短い応答と共に、迫り来る三機の
爆炎の
爆発の音が鳴り響く中、キースは苦く歯噛みしていた。
どうやら、〈スタストール〉の連中に上手く誘い込まれたらしい。キースとレイラの戦域はいつの間にか重なり、上空には
現状、全方位三六〇度が警戒対象だ。それに加えてこの数だ。早急にどうにかしないと、二人とも死にかねない。
「そっちに突破できそうなのは!?」
『こっちは全然ダメ! キースの方は!?』
「俺の方も駄目だ!」
どうにか突破できそうなルートはある。……だが。
そこへと逃げてしまえば、あの白鉄の竜――確か、
だから。それだけは、絶対にできない。
何とかしてこの包囲を抜け出さないと。でなければ、今度こそルナに本当の絶望を与えてしまう。それだけは。
『キース!?』
悲鳴の様な声が聞こえてきて、キースの思考は霧散する。直後、視界の端に見えた火球に総毛立った。
凍り付くような死の感覚が全身に走った、その時だった。
突然その
『な、なに……!?』
通信機から聞こえてくるのはレイラの驚嘆の声だ。どうやら、これをやったのは彼女ではないらしい。
では、誰が?
その問いは、直後に聞こえてきた通信の声に掻き消された。
『こちら第三独立魔術特科戦隊。戦闘に参加す!』
聞いたことのある声と部隊名に、キースは目を剥く。
第三独立魔術特科戦隊。数週間前にここシェーンガーデンで共闘した、連邦軍の魔術特科兵部隊だ。
『そこの二人! とっとと
怒鳴りつける様な声が通信機に叩き付けられる。従わない理由もないので、キースとレイラは言われるがままに一旦その戦域を離脱した。
退却するキース達に向かってくるのは、連邦軍の制式コートを着た黒髪
小銃を片手で巧みに撃つのを、キースは問いかける。
「お前ら、なんでこんなところに……!?」
ルナといい、彼女と共に戦う少年といい。何故、揃いも揃ってこんな人類圏から遠い所に来ているんだ。
どこか硬い声音で、彼は淡々と返してくる。
「俺達はフォースター大尉が撃ち漏らした〈スタストール〉を撃破しろとの命令を受けてここに来てる。……二人は、」
「奥だ」
ふっと彼の視線が向くのを見ながら、キースはそれを告げた。
「……
直後。目を灼くような蒼白の閃光が瞬き、紫色の障壁がうっすらとその周囲に姿を顕現させる。雷鳴の如き大音響が耳を
「……やっぱりか!」
何となく予想はしていたが。やはり、この障壁は全方向に向けて発生しているものらしい。……となると。
障壁から一旦離れる傍ら、レヴは通信機へと叫ぶ。
「正面から突撃する! ルナ、やれるな!?」
『ええ!』
即答されたのに少し複雑な気持ちが沸き立つのを押し殺して、レヴは
その一瞬を視界に捉えるだけでも、彼女が既に限界に近い事は明白だった。今にも倒れそうなのを、気力だけで何とか押し留めているかのような蒼白の顔。
恐らく、これが最初で最後のチャンスだ。逃したり外したりすれば、この戦闘でレヴ達は負ける。圧倒的物量の前に、全員が死に絶える。
並走の最中、二人は
熱を伴った衝撃波が頬を撫でるのを感じながらも、二人は突撃の手を緩めない。更なる加速をもってして、二人は
障壁に最初に刃を突き立てたのはレヴだった。激突の衝撃が全身を打ち、大音響と共に青白い閃光が視界を明滅させる。けれど、決してその手は緩めない。
「ルナ!」
叫んだ直後に。ルナの剣が同じ箇所に突き立った。微かに剣が進む感覚。最後に〈ルイン〉の斉射が叩き込まれ、刹那視界が真っ白に漂白される。
瞬間。眼前に阻んでいた障壁が
すっと身体が進む感覚と同時に、視界が回復する。見えたのは
「レヴ!」
ルナの絶叫が耳を衝く。振り返らない。
声の限りに叫んで、魔力の刃を白鉄竜の腹部へと突き立てる。機械のような、それでいて血肉のような感覚と、その先にある確かな核の感触。遂に捉えた。
上部で〈ルイン〉の斉射音が聞こえる。集積していた熱球が消えるのを、レヴは肌で感じていた。
力の限りに剣を横薙ぎに斬り裂く。核は完全には砕けていない。もう一度刃を突き立て。更に奥へと差し込み。縦に剣を振り抜いた。
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