第44話


 祐輔の説明によると、どうやら先輩のおばあちゃんが今年の春に倒れたみたいで、今年の夏休みに実家に帰って、少しでも元気付けたいという話になったらしい。


 それでなんで祐輔に声がかかったかっていうと、祐輔のことを、おばあちゃんが知っていたから。


 “知っている”というか、たまたま見かけただけだった。


 先輩のテニスの試合があった日に、千葉までわざわざ応援に来ていた。


 その日にたまたま、隣の球場で野球の試合をしていた。


 祐輔のことを、その時に発見したみたいだった。


 一年生なのにマウンドに上がって、チームを引っ張っている姿を見て、ファンになっちゃったっぽい。



 …うん、ざっくり聞いた感じだとなんのこっちゃって感じだが、先輩に「あの野球部の子は?」って尋ねたことが、事の発端になったみたいだった。


 『彼氏役になってほしい』という話の。



 「なんでそんなことに?」


 「おばあちゃんが体調悪いんだって」


 「うん…」


 「元気付けたいんだって」


 「元気付ける…?」


 「ほら、九州と千葉だろ?お互い遠い場所に住んでるから、電話でしかやり取りができないっていうか」


 「うん」


 「いっつも心配してるみたいでさ?学校生活は順調だって、直接伝えたいみたいなんだ」


 「なるほど…」


 「だから、俺が抜擢されたの。婆ちゃん、前々から孫の彼氏が見たいなぁって言ってたらしく」



 なんでそんな大事なことを先に言わないんだよ!!


 バッカじゃないの?!


 そうと言ってくれれば、普通に引き受けたのに…



 「そうなん?」


 「当たり前でしょ!なんで黙ってたのよ!」



 先輩の元に戻り、改めて事情を聞かせてもらった。


 心臓の疾患で体調を崩したおばあちゃんに、挨拶に行く。


 楽しい学校生活を送ってる。


 そういう「話」だった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る