第17話


 「一体何が起こってんだ…?」


 「電車事故が起こったんだって」


 「…みたいだな」



 平然としているように見えて、案外動揺している。


 そりゃそうか。


 全然覚えてないけど、とんでもない事故が起こったんだ。


 テレビはどのチャンネルをつけても事故のことばかりで、新聞は今日も一面。


 200人以上も亡くなったって、逆によく生きてたなって思う…


 脱線事故だよ…?


 何かとぶつかったって言ってたけど、何とぶつかったのかはまだはっきりしてないみたい。



 「ケガは?」


 「だから集中治療室に…」


 「大丈夫なんか?」


 「大丈夫じゃない…」


 「ちょっと見てくる」


 「え!?」



 そう言って彼は部屋を出ようとしたが、すぐに引き返してきた。



 「やっぱりダメだ」


 「ダメって?」


 「自分の体からあんまり離れられないんだ。行けて10mくらい」



 そうなんだ…



 「せっかくお前の醜態を見に行こうと思ったのに」


 「…あんた、デリカシーってもんがないの?」




 こう見えてわりと傷ついてるんだよ?


 まさか、自分の体があんなことになってるなんて思いもしなかった。


 戻ろうにも戻れないんだ。


 あんなに重症だと。



 「様子見に行ってみんか?」


 「やだ」


 「なんで??」


 「まだ頭が痛いんだって」


 「自分の体に戻りたくないん?」


 「戻りたいけど、今戻ったら多分地獄を見る」


 「そんなにひどい状態なん??」


 「うん」



 全身打撲に肺挫傷、内臓の損傷、骨折、etc


 眼底骨折なんて普通はしないでしょ?


 今まで感じたこともない痛みが、全身に襲ってくると思う。


 …多分



 「今までどこおったん?」


 「だから、今日目が覚めたんだって」


 「じゃなくて、ずっとここにいたってこと?」


 「そうだが?」


 「声かけてよ」


 「かけたよ」


 「ほんとに?」


 「全然気がついてくれねーから諦めてたんだ。ずっと隣にいたのに」



 …ずっと隣に


 そうだ。


 コイツ、私の行動をずっと見てたってことなんだ。



 …でも待てよ


 ってことは…

 

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