第22話 武器オプション

「武器オプションといえば、定番のものが二種類あるの。まずはそこから見ていきましょう」


 メグリがプロジェクターの操作パネルに向けて指を振ると、自由気ままに浮かんでいたアイコンの一部が壁際まで下がり、残ったものは行儀よく整列して二つのグループを作った。

 その片方、剣や槍といった近接武器の集まりを示すと、列の先頭にあったアイコンが光を放ちながら膨張して彼女の手中に収まる。


「これは【ベースロッド】。見ての通り、ただの棒ね。使い方もイメージしやすいでしょう」


 ただの棒、とはまさしくそれだ。

 光が固形化したように、まっすぐな円筒形を取っていた。長さはランの背丈と同じか少し長いくらいで、メグリが腕を振ると現物の棒と同じようにブンと風を切る。


「サイズはS・M・Lの三つから選べるわ。派生武器もいっぱいあって、突き刺す攻撃に特化させた【スパイクスピア】や、重石を付けて打撃力を上げた【インパクトメイス】なんか、それらをまとめて白兵型武器メレーウェポンって呼ばれてるのね」


 実際にホログラムを、天井まで届くような大槍や小振りなナイフに切り換えて見せながら、メグリが説明してくれる。


 近付いて、相手を殴る。非常にわかりやすい原始的な武器だ。

 そして、わかりやすいからこそ、ランには不向きだということも、また明らかだった。


「わたしもそう思うわ。白兵型は使いやすいけど、『相手に近付かないといけない』っていう弱点があるからね。ランくんは自分からガンガン攻めるタイプでもなさそうだし」


 メグリも同意して、「だから、わたしのお勧めはこっち」と言ってもう片方のグループを示す。

 先頭のアイコンが光って、形作ったのは無骨な銃だ。


銃撃型武器ファイアウェポンっていうんだけど、基本形となるのが、この【白火しろび】。威力、射程、弾速、連射性に重量、どれをとっても平均的なアサルトライフルよ。性能に合わせて、ピストルからグレネードランチャーまで、いろんな派生武器があるわ」


 銃という、遠くからでも攻撃できる武器が強力なのは、モルファイトも現実の戦闘も変わらない。

 一旦寄られたら弱いのと、装填した弾を撃ち尽くした時の再装填リロードが無防備になることの二点に難があるとはいえ、短所を補って余りある長所を持ち合わせている。


 なお、銃撃型武器は派生も含めて弾丸が共通しており、三種類から一つを事前に設定しておく必要があるとのことだ。


 一つは貫通弾。威力が高い代わりにピンポイントにしかダメージをあたえられないシンプルな弾丸だ。

 そして散弾。これは発射と同時に弾丸が粉々に弾けるので、射程距離は減衰するが、一度に広い面積に攻撃することができる。

 最後は炸裂弾。弾丸が爆ぜて威力を拡散させるという意味では散弾と似ているが、爆発するのは着弾点を中心とするため、得られる効果が大きく変わるのだという。


「……むずかしい」


 説明を聞きながら、ランもホログラムを触って解説ウインドウを開いてみるが、白兵型と比べると大分に複雑だった。

 スラム育ちなので読み書きが不自由なこともある。わかりやすい動画やイラスト付きだし、メグリに訊けば教えてもらえるからなんとかなるにしても、理解するには時間がかかりそうだ。


 使いこなせるか、と尻込みするランの肩を、メグリが励ますように叩く。


「最初から全部わからなくても大丈夫よ。とりあえず貫通弾の【白火】から始めてみて、自分に合った派生武器に変えていけばいいわ」

「うん……。……あれ?」


 首を立てに振ろうとして、途中で斜めに傾いた。

 ここまでの説明では、触れられていない武器があるのではないか。


「……【陽焔フレア】は?」


 “火天のウリエル”の代名詞たる武器。紅の炎を操るオプションは、興味の度合いでいうなら一番で、いつになったら登場するのかと楽しみにしていたのだ。

 しかしメグリは、どこか気乗りしない様子で目を泳がせる。


「いっそ無視するのもアリかと思ってたんだけど……ランくんが知りたいなら、教えちゃった方がいいかな」


 悩みながらも、壁脇に追いやっていたアイコンたちを呼び寄せる。


「白兵型と銃撃型以外の武器は、ちゃんとした系統があるわけじゃないの。特殊型武器エクストラウェポンってまとめてるけど、あくまでも便宜上の分類ね。もちろん良い武器なんだけど、クセの強いのばかりだから、使い手を選ぶオプションなのよ」


 たとえば、コスプレ男が使っていた【ホーミングミサイル】は、標的をどこまでも追いかけていくミサイルを発射する武器だ。

 ランは苦戦させられた印象が強いが、一方では予選のようにロックオンが外されて空振りどころか自爆の危険すらあるし、再装填にかかる時間が長くて隙が大きいなど弱点も多いのだという。


「【陽焔】も難しいんだけど……」

「じゃ、やめた方が……?」

「うーん。だけど、やってみたいのよね?」


 楽しみにはしていたが、無理ならば仕方ないか。

 肩を落とすランを見て、メグリは少し思案した後、決意するように頷いた。


「だったら、チャレンジしてみましょうか」

「えっ……大丈夫、ですか?」

「もちろん! やりたいなら、一回はやってみないと後悔するもの」


 メグリは力強く笑いかけて、道場の隅にあった棚からヘッドセットを取ってきて、ランの頭に装着する。正面に膝立ちになり、後頭部へと腕を回してベルトを固定し、スイッチを入れると、【脳波リンク完了】という声が頭の中に響いた。


「わっ!?」

「これでお手軽に、ホログラムをモルフィングオプションと同じ感覚で動かせるようになるわ。【陽焔】の他にも気になるオプションがあるなら一通り試してみて、それから電脳空間に入って本格的に……」


 と、スケジュールを組み立てて、いざ実習に移ろういうところだった。


 着信。

 音を鳴らしながらアイコンの一覧に電話マークが出現。メグリがタップすると、オキの声でしゃべり始める。


『お取り込み中に失礼いたします。ススム様よりご連絡がありましたので、お知らせをと』

「わかったわ、すぐ行く。……ランくん、ごめんなさい。急いで人とお話しなきゃならないの。ちょっと出ていっちゃうけど、待っていられる?」

「うん……大丈夫、です」


 一人でも問題ないと答えると、メグリは「いい子ね」と頭を撫でて、傍に浮かんでいたアイコンをタップした。

 火炎のマークが描かれたアイコンが光とともに膨張し、色を紅へと変えていく。


【【陽焔】オプションのファイルを展開。チュートリアルを開始しますか?】


「操作方法とか、基本的なことはAIが教えてくれるから、自分なりに色々とやってみるといいわ。それじゃあ、なるべく早く帰ってくるからね」


 そう言い残して道場を後にするメグリを見送ってから、ランは宙に浮かんで燃え続けるホログラムの火球に向き直った。

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