恋するポーカーフェイスお嬢様…………の、騎士の苦難 ~ラブコメ好きのフツメン騎士~

よくぼーのごんげ!

第1話 『才色兼備の裏側』



 ―――――『魔法国』ヴァルファリラにある魔法学園、デルスメイア高等学校。この学校には『天才』がいた。

 スポーツ万能、成績優秀、他にも、芸事、音楽、さらには武芸、あらゆる方面でも、様々華々しい功績を残す。そんな完璧無比な者を、『天才』という。


 そして、二年生でこの学園の生徒会長にまでなった金髪を腰まで伸ばした少女、エリス・ストレイブはそんな『天才』に値する。しかも先程いった要素に『美少女』と、『大手商会の会長令嬢』であり『公爵令嬢』いう肩書きまでプラスされた、いわば『才色兼備』だ。


 エリスは普段から大手商会会長の父親からの教えでポーカーフェイスを心掛けており、どんなことをしても表情が変わらない。なので、周りからは『氷のお嬢様様』として崇められていた。そう、崇められていたのだ。周りを冷たく扱っても、周りからは人気があり、一部の層からは「そこがいい」だなんてことも言われたりする。




               △▼△▼△▼△▼△






「見てください! 生徒会長よ!」

「あぁ、今日もお美しい・・・」


 綺麗に清掃された廊下の真ん中を優雅に歩く無表情な少女の周りを、黄色い声が囲む。その声に、エリスは表情一つ動かさない。そして、その傍らをチョコチョコと歩くアホ毛の飛び出た少年は、かわいらしい顔立ちの低身長で、まるで小動物のような雰囲気だ。名をアレン・デレスガード、身分は平民で、生徒会の副会長だ。

 そしてその廊下の突き当りにある生徒会室のドアを開け、中に入る。 


「あ、相変わらずすごい人気ですね、会長は」


「そんなんじゃないわ、ただ単に私の肩書きにつられてるだけよ」


「そんなことありませんよ!会長は、そ、その・・・とっても美人ですごい人です!」


「・・・そう、あなたは物好きなのね」


「そんなことないと思いますけど・・・・」


 アレンは、エリスの自分を卑下するような言い方を顔を赤くしながら抗議するが、エリスはそんな言葉に耳をかさない。

 そんな会話が行われると、それからは生徒会室に沈黙が包み込み2人は淡々と作業を進める。エリスは相変わらずな無表情で、アレンはさっきまでの表情とは打って変わって真面目な顔だ。

 そして無言のまま時間は進み、帰りの時間が来る。


「ふぅ、ようやく終わりました。会長は?」


「馬鹿ね、当然よ。あなたは随分と遅かったのね」


「? 待っててくださったんですか?」


「違うわよ。あなたがサボらないかを見張ってただけよ」


「そ、そうですか・・・」


 心配しなくてもサボらないのに・・・

 そんなことを思いながらも、アレンは口に出さない。


「はぁ、まぁいいわ。じゃ、私は帰るから」


「は、はい。さようなら!」


 軽い挨拶をして、エリスは生徒会室を出る。しばらくすると、校門に大きな馬車に乗って帰るエリスが見えた。


「ふぅ、緊張したぁ・・・」


 その瞬間、アレンは全身から力を抜く。これは、エリスが怖かったわけではない


「あぁ、もう、ドキドキした」


 そう、アレンはエリスのことが好きなのだ。


「まぁ、会長は僕のことなんか眼中にないと思うけど・・・」


 そう思うのも当然だ。アレンは平民、エリスは貴族、叶わない恋だとわかっているが、


「やっぱり、あきらめきれないよなぁ」




               △▼△▼△▼△▼△




「ただいま」


「おかえりなさい。エリス様」


 大きな家の大きなドアを開け、帰ったエリスを、美しく輝く銀髪をたなびかせるメイド姿の女性は、エリスの専属メイドのシーナ・ドレイストだ。メイドだが、これでも一応侯爵家、つまりは名家だ。父親がストレイプ商会の世話になっているとのことで、昔からエリスに仕えている。

 そしてシーナはエリスの荷物を持ち、部屋へと付き添う。


「それで、どうでしたか」


 部屋に入り、シーナはエリスに問う。この「どうだったか」という質問は、学校の話ではない。嫌、一概にもそうは言えないと思う。なぜなら、


「めっっっちゃ、緊張した」


 なぜなら、シーナが問いているのはアレンのことだからだ。

 そしてその質問にエリスはさっきまでの無表情とは打って変わり、顔を真っ赤にしてシーナの方を勢いよく振り返る。


「あぁもう! 可愛すぎるよぉぉ・・・。それに、私のことを美人って・・・・あぁぁぁぁ!」


 ベッドに倒れこみ、悶えるエリスの姿は、『氷のお嬢様』とは全く違った。

 実は、エリスはアレンのことが好きだったのだ。そう、2人は両想いなのだ。ただ、エリスは無表情で鈍感だ。だから、アレンの好意に全く気付かないし、アレンもエリスの好意に気付けない。


「そんなに好きなら、告白したらいいじゃないですか」


「で、でも。きっと、私のことなんか好きじゃないと思うし・・・」


「はぁ、一目瞭然でしょうに・・・」


「? なにかいった?」


「いいえ、なんにも」


 そんなエリスの言いように、シーナは呆れる。


「おーっす、おじょー帰ったんすね」


 そこへ一人の男が入ってくる。

 この男は、エリスの護衛をしている男だ。その専属冒険者兼、騎士である護衛の男の名は、エデン・ギルニアス。

 この男は主のエリスに比べ、黒髪短髪の平々凡々な見た目だ。

 そんな平々凡々な見た目とは裏腹に、公爵令嬢の護衛を任されるほどの力と技術がある。そして――――




――――――そして、”一応”主人公であり、異世界転生者だ。




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