夫が過労で死にかけてます

@samayouyoroi

夫の帰宅

第001話 帰宅

「お帰りなさいませ、閣下」

そう言ってノエルは深々と頭を垂れる。自分の夫を閣下だなんて、という感想は日々の生活の中で薄らいだが、考えてみるとやっぱりちょっと違和感がある。ちなみにメイド時代はこんな事は言わずにただ深々とお辞儀をするだけであった。


「………だ、いま………」

ノエルの夫、バークロンド伯爵アルバート・リングフォードは秘書と護衛に肩を担がれながらか細い声で妻の出迎えに応えた。


秘書の人と護衛の人はそのままアルバートを食堂まで運んだ。これは特別な事ではなくほぼ「毎度」の事である。そう「毎日」ではない。なぜならばアルバートは一度出勤したら二、三日はそのまま泊まり込む事が多いからである。


アルバートは若く美男子である。つい先月28歳になったばかりで、ちゃんと身だしなみを整えれば貴公子そのもの、場合によっては23歳のノエルより若く見える。


しかし二日ぶりに見た夫は無精髭が口元や顎をうっすら覆っており、その切れ長の大きい目は細かい資料を読みすぎたせいでしょぼしょぼになって半開きに霞んでいる。その色合いの薄い金髪ブロンドは正面からみると左側がぺったりとなっており、つまり机に突っ伏した後の寝癖がそのままだった。

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