私はいかっている
他支店
私はいかっている
私は怒っている。
最近、世がおかしい、近所の好きなパン屋さんに行けば「チョココロネは女性器を思わせるのでなくなりました」と言われた。コンビニに行けば「ビニール傘は環境破壊を促進するのでなくなりました」と言われた。八百屋さんに野菜を買いに行けば「屋」の字をペンキで塗りつぶし、上から無理やり八百店に変えられていた。「屋」は差別言葉らしい。
そして、好きなパンが消えた私は悲しんだ、傘を忘れたサラリーマンは雨に濡れた、八百屋――ではなく八百店は、出費が増えたと嘆いた。
多様性だというのに多くの人の普通が否定されるようになった。
多くの人が不快を感じないようにすることによって、多くの人が無駄な不快を感じるようになった。
夜、ベランダで冷涼な風に吹かれながら、最後のチョココロネのチョコだけを食べた私は、少し怖くなった。
この食べ方を否定されるのが怖いのか。それとも、最後のチョココロネを食べ終わってしまうのが怖いのか。コロネを適当にラップで包んだら、その恐怖を忘れるようにそそくさと布団に入った。
変な夢を見た、私の部屋にチョコのないコロネが、その穴を口の様にパクパクさせながら言った、「多様性とは、皆が少しずつ否定され、少しずつ不快になる世界だ」と。コロネは、女の子だと思ったが男らしいことを言うなと思った。
これも差別なのかな?と思いつつ横を見ると少し穴が開いているビニール傘が口の様に開閉運動をしながら言った、「あたしはね、皆が一つになる姿勢が大事だと思うの」と。ビニール傘は絶対に男の子だと思ったのに女の子らしい。
世界は私の常識から少しずつ変わる、まるで私にテセウスのパラッドクスの答えを求めるように、昨日の正解が今日の正解かわからない。昨日の世界が今日の世界と同じなのか。
私は静かに目を覚ますと、コンセントとの接続を解除し、充電が満タンになったことを確認した。
「いつから私が人間の女性だと?」
私はいかっている 他支店 @tasitenn
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