黒幕の手下となる怠惰な傀儡王子は前世を思い出したので改心しますっ!〜原作知識と努力で死亡シナリオを回避しまくっていたら主人公とヒロインの崇拝対象になった件〜
第1話 怠惰な傀儡王子、前世の記憶を取り戻す
黒幕の手下となる怠惰な傀儡王子は前世を思い出したので改心しますっ!〜原作知識と努力で死亡シナリオを回避しまくっていたら主人公とヒロインの崇拝対象になった件〜
ナガワ ヒイロ
第1話 怠惰な傀儡王子、前世の記憶を取り戻す
「ディオン、今日こそ一緒に勉強しますよ!!」
開口一番、僕の部屋に入ってくるなり声高々に叫ぶ少女が一人。
この人の名前はリリアーナ。
リリアーナ・フォン・ディアベル。ディアベル王国の第一王女。
僕の姉君である。
「嫌です。まだ朝じゃないですか」
「もう昼です!! いいから起きなさい、ディオン!!」
姉君がベッドで眠る僕の毛布を奪い取ろうとしてくるので、包まって防御する。
別にベッドから出ないことに理由はない。
強いて言うなら、面倒臭いから。このまま永遠にベッドで眠っていたいのだ。
周りの大人たちは僕を怠惰と言って叱るけど、知ったこっちゃない。
僕の名前はディオン。
ディオン・フォン・ディアベル。
ディアベル王家の恥であり、自他共に認める無能王子である。
ではどうして無能なのか。
「そもそも姉上、僕が頑張っても無意味じゃないですか」
「な、何を……」
「僕の魔力は無属性。魔法が使えない無能です。王位継承権だって、僕には無い。そもそも頑張る理由が無いです」
この世界の生物は、大なり小なり魔力という力を持っている。
当然、僕も魔力は持っていた。
しかし、僕の場合は持っているだけ。
無属性の魔力を持つ者は、魔法を使うことができないのだ。
無属性の『無』は無理、無駄、無意味、無価値の『無』と言われる程である。
「そ、そんなこと、やってみないと分からないじゃないですか!! 貴方はまだ十歳です!! これから頑張ればきっと――」
「たしかに姉上には分からないでしょうね。生まれながらに二属性の魔力を持っていて、将来が約束されている姉上には」
僕だって最初からこうだったわけじゃない。
今よりもっと小さい頃、姉上が魔法を使う姿に憧れて頑張った。
でも、周囲の大人たちは僕のその努力を嘲笑うばかり。
「僕は何もしたくないですし、しないです。姉上がいれば、この国は安泰なんだからいいじゃないですか」
「っ、い、いい加減にしなさい!!」
「うわ!?」
姉上が毛布を掴み、僕を無理矢理ベッドから引きずり出した。
そして、僕はベッドから落ちてしまう。
「あがっ!?」
ベッドから落ちた僕は、床に強く頭を打った。鈍い衝撃が、脳天から全身に駆け巡る。
その衝撃は、僕の中に眠っていた知らない何者かの記憶を呼び覚ました。
天を貫く無数の摩天楼……継ぎ目の無い道を駆ける鉄の箱……空を舞う鋼の鳥……。
僕は知っている。この記憶の持ち主が誰なのか、
他の誰のものでもない。
――俺自身の、俺の前世の記憶だ!!
全ての記憶を思い出したわけではない。
前世の自分の顔は分からないし、家族だって思い出せない。
でも、俺の青春を捧げたあるゲームの記憶だけが鮮明に思い出せる。
「ラストブレイブクエスト。嘘だろ、まじかよ」
前世の国内外でビリオンヒットした、超大作ロールプレイングゲーム。
その名も『ラストブレイブクエスト』。
圧倒的な自由度と操作性を誇る、剣と魔法のファンタジー世界を舞台としたゲームである。
旅の途中で出会ったヒロインと好感度を上げることで結婚できたりするし、本当にプレイしていて楽しいゲームだった。
しかし、楽しいだけのゲームがビリオンヒットするわけがない。
当然、そのストーリーは中々シリアスだった。
選択肢でヒロインが死ぬこともあるし、事ある毎に主人公を妨害する悪役キャラだって登場もするのだ。
問題は……。
「俺、その悪役じゃね?」
悪役キャラの名前はディオン。
ディオン・フォン・ディアベル。
邪神の傀儡として主人公やヒロインを苦しませる怠惰な王子。
最後には主人公の聖なる力の前で死ぬ、言わばラスボスの前座。中ボス。
それが俺である。
いや、まさかまさか。ゲームの世界に転生したとでも言うのか? 無い無い。今時そんな転生モノとか流行らないってば。
でも、もしかしたら……。
「あ、姉上、勉強しましょう!! 早急に!!」
「え? ディオン!? も、もしかしてやる気になってくれたのですか!?」
「はいはい!! そうですそうです!! さっさとしましょう!!」
「ふふっ、じゃあ早速魔法の先生を呼んで――」
「魔法なんかより歴史です!! いえ、地理でも良いです!!」
「え? ちょ、ディオン!?」
俺の頭には『ラストブレイブクエスト』のマップが全て入っている。
ゲームで主人公が立ち寄る主要な国や都市の名前は覚えているし、この世界が本当に『ラストブレイブクエスト』の世界かどうか、確かめねばならない。
「ま、待って、ディオン。歴史の先生も地理の先生も来週にならなければ来ないですよ?」
「ちくしょうめ!! だったら図書館に行ってきます!!」
僕は姉上を寝室に放置して、図書館へ向かって走り出すのであった。
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