4月18日 4:58 天宮家(U17アジアカップ決勝)

 U17アジアカップ決勝。


 グループステージではある程度日本との時差に合わせたスケジュールになっていたが、決勝トーナメント以降はそうはいかない。


 サウジアラビアの時間で20時キックオフということは、日本時間では未明の2時である。徹夜するにも早起きするにも辛い時間だ。


 また、このU17は勝ち進んではいるものの、見映えの良い試合はしていない。ここまで失点は僅かに1だが、複数得点した試合も2試合のみ、スコアが中々動かないチームとなっている。



 生中継を見るべきか。


 結菜は「明日にする」と寝てしまった。


 陽人は悩んだものの、やはり自分のチームの選手が出ているので9時に寝て2時前に起きて、端末を広げる。


 決勝の相手は中央アジアのウズベキスタン。


 近年は若年層の強化が進み、しばしば上位に進出してきているチームだ。



 日本のメンバーは初戦とほぼ同じ。

 GK:水田

 DF:神田、神沢、神津、溝山

 MF:三島、高、伊東

 FW:司城、小本、戸沢


 試合が始まっても、これまでとそう変わるところはない。


 低いラインで相手のやりたいことを封じて、ボールを奪ったら状況に応じて長い距離のカウンターを目指す。ただ、その意図がかみ合っているとも言いづらい。


 特に3トップに連動性がない。もちろん、高踏や北日本のような高度な連動性を代表で実現するのは難しいだろうが、小本と戸沢が自分のやりたいことをやろうとするのみで、司城がその合間のスペースに移動させられている様子が気の毒になってくる。


(これだったら、小本と戸沢のどちらかを外して、戎のようなタイプを入れた方がまだ回りそう)


 そんな風にも見える。


 ただ、もちろん、チームの中にいるわけではないから断定はできない。


 日本のプランをウズベキスタン側がうまく潰している可能性もある。


 もっとも、そのウズベキスタンも攻撃面ではほとんど何もできていない。ウズベキスタンの戦術の中心は大型FWのラシエフだが、ここを神津がうまく潰しているので起点が作れない。



 結果、ボールが動くのは日本陣内が多いが、ウズベキスタン側が漫然と攻めているだけ。


 チャンスになりそうな展開は日本の方が多いものの、意図が合わずに自ら潰してしまうことがほとんど。


 前半45分が終わって、両チームのシュートが5本あったかというような退屈な試合となってくる。



 後半、両チームともメンバー変更はない。


 ということは、また同じような展開が続くことになる。


 小本と戸沢は相変わらず合わない。中盤の3人は相手を潰すことに長けてはいるが、サポートに入ろうという動きもない。神田、溝山、司城、小本、戸沢がひたすら無駄に走っているようなシーンが続く。


 両チームとも枠外へのシュートを2本ほど増やしただけで、依然としてチャンスらしいチャンスもない。


 そうこうしている間に20分に司城に代わって竹洞が入る。


(確かに疲れ始めてきてはいたけれど……)


 周りに利己的なプレーが多く、それを何とか回そうとしていたように見えるだけに、疲れたからといの一番に下げられるのは酷に思えるところがある。



 続いて25分、戸沢に代わって譽田が入った。


 サイドバックでプレーすることもある譽田だが、この試合では戸沢のポジションであるウィングで使うらしい。そして、この交代を機に日本のボールが効果的に回るようになる。


(やはりあの海外組2人は、ちょっと合っていない感じだよなぁ)


 小本に竹洞と譽田が合わせて動くことでチームとしての流れは良くなる。


 ただ、完全に崩すところまではいたらない。ウズベキスタンのGKジャルコフの調子も良いようで簡単なシュートは入りそうにない。


(チーム全体として点を取りに行くという強い意欲がないようにも見える)


 結局、後半45分を終えても0-0のままだ。



 延長戦に入り、中盤を変えてくるが、基本的な戦い方は変わらない。


 小本が動いて、周囲が合わせる方針は変わらないが、コンディションの問題か、チームのやり方が合わないのか肝心の小本がピリッとしない。


 だから攻めは色々と不満だが、もちろん、代表チームのやりくりが難しいことは陽人も百も承知だ。


 うまく行かないと分かっていることでも、やらざるをえない時があるという時も理解している。


(この試合は決勝ではあるけれど、ワールドカップに向けての試験台でもあるわけだからな)


 事実、守備に関しては全く不安がない。


 この相手にここまで守る必要があるのか、そういうツッコミはありうるが、世界との戦いを意識して「まず失点をしないやり方」というものを意識している可能性は大いにある。


 アジアの相手だからこそ、海外組にある程度自由にプレーさせて「アジアレベルでも点が取れないぞ。世界相手にも好き勝手やるつもりか?」と説得するつもりなのかもしれない。



 結局、延長戦でも試合は動かずにPK戦となった。


 PK戦はハラハラするものであるが、ここに至って陽人は不思議と安心できる。


(水田がいるなら何とかなるんじゃないかな)



 世間の期待、陽人の期待。


 水田はそれに応えた。このPK戦でも最初の2人を止めて完全に主導権を奪い、3-1の勝利に貢献する。


 優勝が決まり、全員がピッチに飛び出してくる。


 終わってみれば、21人の選手中起用していないのは第3GK重畠のみで、残る選手については最低一度は起用している。


 攻撃面には不満が多いけれども、仮に内容が良かったとしても世界相手となるとまた変わってくる。


(世間の評価は分からないけれど、これはこれで良かったのかな)


 陽人はそう思った。


 同時に、これなら無理して起きる必要もなかったな、とも思った。

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