4月7日 9:22 グラウンド

 練習が始まり、佐久間は結菜と我妻から練習内容の説明を聞いている。


 今日も午後はブレイキンの選手によるトレーニングが行われる。


 やってみると、予想以上に体幹にきついトレーニングが多いし、ダンスに関しても頭が働かない。


 繰り返しやっていると、発想力などの向上に繋がる部分があるかもしれない、とも感じる。



「さしあたりは……」


 女子が全員佐久間と一緒にいるので、隣には後田しかいない。


 2人でリーグ戦の編成を考えることになる。


 今季の県リーグ戦は東海プレミアリーグに昇格したAチームと、引き続き県2部を戦うことになるBチームの構成になる。


 東海プレミアリーグには、Jリーグ勢のユースチームも参加しており、深戸学院や浜松学園が中位というレベルが高いリーグだ。


 さすがにこちらは手を抜けないことになるが、4月、7月、9月、11月とU20とU17に選手達が抜かれることも想定しないといけない。


「となると、3年と2年の半分くらいを所属させておいて、極端にチーム力が落ちないようにしないといけないだろうな……」


 Bチームに関しては1年の実戦練習の舞台でもあるから、これ以上レベルを上げる必要がない。


 降格しない程度に戦えば良いので、2年でトップチームに出る見込みのない選手と1年との編成になるだろう。


「去年もBチームの初戦は滅茶苦茶だったな」


 後田が思い出す通り、昨年はスコアこそ3-3だが、水田がPKを3つ止めてというものであった。


 そこからスタートした水田が、今やU17の主戦キーパーという扱いになっているのだから、時の流れは早いものである。



 と、高幡舞がやってきた。


 女子は全員芸能界にも籍を置く佐久間サラに関心がある、はずだったが、彼女だけは例外である。


 ここ数日は全く姿を見せなかったが、「ライバル校の新人動向を見定めます!」という連絡を受けているから、誰も何も言わなかった。


 己の世界に入り込んだ高幡を止めようとしても無意味だからだ。


「おはよう、高幡さん、あっちに佐久間サラがいるけれど」


 念のため、陽人は佐久間の存在についても触れるが。


「佐久間? 札幌大山さっぽろだいせんの佐久間大翔のことですか?」


 と、全く見当違いの答えが返ってくる。



「まず、今年もライバルとなるであろう北日本短大付属ですが……」


 去年の段階では、県内でも三番手、四番手という立場だったが、一昨年の選手権優勝に続いて、昨年は総体も選手権も準優勝。現在もっとも安定した成績をあげているチームとなっている。


 そのため、学校もこれまでよりサッカー部への強化費を増やしており、県内の優秀な学生がこぞって進学しているという。更に東北のJ2やJ3チームに所属していたユース選手も移動しているらしい。


「ただ、かなりの大所帯になるようですので、3月の段階でセレクションにかけて25人の獲得にとどめたようです」

「……多すぎてもどうなるものでもないからね」


 選手権で実践してきた固定クリスマスツリー型戦術のように、北日本短大付属もかなり戦術的にハイレベルな練習を行っている。となると、ある程度人数を絞る必要はあるだろう。



「次に熱心なのはやはり武州総合ですね。ディエゴ・モラレスを補強しましたが」

「補強という言い方はあれだけど、確かにそういう言い方が合っているかもね」

「他にも昨年の段階から近隣ユースから何人か転籍組を受け付けているようです。練習環境も良いですし、昨年の選手権でまがりなりにもニンジャシステムにチャレンジと、関東で高踏に対抗できそうなのは武州総合だけというイメージが固まっていることもあるのでしょうね」

「ユース組の転籍が多くなるということは、油断できないだろうなぁ」


 後田が頷いている。


 陽人にはもう一つ心当たりがある。


「東京の東韓は?」


 韓国サッカー協会が動いてまで強化しているという存在というだけに、何をしているのか気にはなる。


「あ~、そこはあれですね。大阪や福岡から何人か連れてきているみたいですが、中学の情報がないので」

「なるほど」

「韓国からも5人連れてきているみたいです。どういう登録になるのかは分かりませんが」

「国内なら半年間経たないとダメだという話だったはずだね。国外から来るのはどうなんだろう」


 ルールのことは分からないし、一々文句を言うつもりもないが、外野が試合以外のことで騒々しくなるのは勘弁してほしい。


「そうですね。ここはルールも含めて、今後もうちょっと追うべきですね。他には……」

「……あとは資料でいいよ」


 何せ持っている資料だけでもA4用紙40枚くらいありそうである。


 それを一々説明されても、覚えられるはずがない。


 実際に参考資料にとどめて、気になるところだけチェックしておくくらいの使い方が正しいだろう。


「分かりました」


 と、高幡は資料を預けて戻っていった。


 結局、佐久間達のところにはいかないらしい。



 後田が分厚い資料を眺めて溜息をついた。


「しかし、よくよく考えれば二年前の高踏はこれだけ分厚い資料を作っても、入っていなかったんだろうなぁ」


 陽人も頷く。


「確かにそうだ。同じように、高幡マークの外から今年、突然飛躍してくるチームだってあるかもしれないな」

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