11月28日 19:47 メルボルン・スクエアスタジアム
『右サイドの立神が入り込んでシュート! こぼれ球に星名……枠の外でした』
前半30分が過ぎてスコアに動きはない。
次第に形はできてきている。
星名と緒方はしばらく休んでいたため、体調は万全で戦術的にも進化している。最高度の戦術はともかく、通常のプレッシングにかけては問題がない。
ただし、良い形でシュートを打ってもキーパーに阻まれる。
「コンディションは良いが、星名の日ではない」
そんな印象を抱かせる出来だ。
もどかしいが、ベンチとしてはどうしようもない。
少なくともメキシコは前半良い形が全くない。疲れなのか、いつもと異なるスタイルで試合に入って抜けられなくなったのか、全く出る形がない。
無理なロングボールが飛んできて、エステバンがイライラするシーンが増えている。
メキシコの監督はほぼテクニカルエリアで叫んでいる。笛を吹けども誰も踊らず、という言葉を思い出す。
そんなメキシコだが36分に前半最大のチャンスが訪れる。
日本のパス回し中、七瀬が上木葉に下げようとしたパスがずれ、トップ下のフエンテスに出てしまった。
「あぁーっ!」
日本ベンチの全員が思わず叫ぶ。
フエンテスからスルーパスを受けたエステバンがフリーで走り、エリア近くまで行ってシュートを打つが、やはり長距離を突破して決めるタイプではない。最後バテ気味に打ったシュートは大きく枠を外れた。
「集中しろ! 集中!」
垣野内が大きく手を叩いて鼓舞している。
40分が過ぎた。
後半に向けてどうするか、そろそろ考えないといけない。
「相手がボールを保持しないとなると、希仁がどうしても浮いてしまう」
ここにもう一つ工夫をこらせる存在、瑞江か戸狩を入れたいところとなる。
ただし、後半、メキシコがより前に出て来る可能性がある。その際には稲城は必要な存在だ。
他には交代させた方が良い存在はいない。
星名と緒方はシュートだけ決まっていないが、30分以降相手ディフェンスよりコンディションが一段上であるところを見せている。一本決まれば、そのまま行けそうな雰囲気がある。
七瀬はミスパスが一本あったものの、再三サイドから折り返しをあげている。
「峰木さんならどうします?」
決めあぐねて、峰木に尋ねてみた。
「うーん、まあ、この展開なら動かないかな」
「展開自体は悪くないですし、ね」
「そう。変に変えると気負いを増しそうな気がするからね」
「なるほど、気負いが増える……」
確かに陽人自身、点が欲しい、と思い始めている。
それは選手にも伝わるだろう。数試合ぶりに出ている星名や緒方がそれで力んでしまっている可能性も否定できない。
そこに更に攻撃的な選手を入れた場合、より気負いが増してしまい、攻め疲れなどを起こしてしまう可能性もありそうだ。
点が入れば良いが、入らない場合に焦りから自滅してしまう可能性が出て来る。
「確かに、慌てて何かをする時間ではないですかね」
陽人がそう言った瞬間、右サイドで上木葉がタックルを受けた。
激しいタックルではなかったものの、浮いた後の着地で足をひねったようだ。ピッチの外に出される。
時計は43分を回っている。日本は一時的に10人になったが、メキシコも時間も時間なのでゴールより失点回避、引き続き後方から動かない。
ドクターからの無線が峰木に入る。
『軽い捻挫で微妙なところです。すぐの復帰は無理そうですが、ハーフタイムに検査してテーピングなどで固めれば後半はプレーできるかもしれません』
「分かった」
報告が入ったところで、ロスタイム表示が1分と出た。やはりほとんどない。
控え選手のアップは進んでいないので、この段階で替えることは現実的ではない。
「ハーフタイムに状況を見ることになりそうだね」
「いえ、交代します」
「ほう」
峰木が意外そうな声をあげた。
「もう少し、星名と緒方にやりやすい環境を作ってやりたいと思います」
「やりやすい環境?」
その緒方が左サイドをドリブルで進む。
彼と右サイドバックのラミレスとのマッチアップも前半何度も見られたシーンであり、僅かに緒方が優勢だ。ここもサイドライン際から股下を通して突破を図るが、ゴール前にはダークレッドのメキシコの壁が立ちはだかっている。
送ったクロスは星名を狙うが、競り合いの中で強烈なヘッドにはならない。
そのシュートをキーパーが確保したところで前半終了の笛が鳴った。
0-0。
スコアに動きのないまま、ハーフタイムを迎える。
※あのダークレッドにグリーンの鱗みたいなユニフォーム、「えっ、メキシコのユニフォームってこんなんだったっけ?」と驚きましたが、今年からだったと知って安心しました。
しかし、ここ数年のユニフォームを見ると結構色の変化が激しいですね。普通にグリーンでいいんじゃないか感がありますが……
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