8月6日 11:05 総体試合会場
コーナーキックを難なく切り抜けると、流れは武州総合側に傾いてきた。
「疲れも出てきたかな……」
連戦もあるし、ブーイングが飛び交うやりづらい環境、更には「決まった」と思ったPKをやり直しで失敗してメンタル的に落ち込みが来る。
「神沢がきついように見えるが、どうする?」
後田が尋ねてきた。
1年生センターバックの神沢はここまでしっかりプレーしてきているが、確かにへばってきているように見えた。この後、源平が入ってくることを考えると中々に厳しい状況だ。
もう1人、左サイドバックの曽根本もかなり疲れているように見える。
「……となると、尚をCBに入れて、英司のところに真治かな」
園口を左サイドバックに戻して、戸狩の得点力に期待という展開になる。
後半8分、高踏の2度目の選手交代が行われた。
「きついなぁ。向こうは誰も替えていないけど、こちらは4枚使ってしまった」
交代枠は5。不慮の負傷などもありうるので最後の交代枠は簡単には使いづらい。ここから疲れてきた選手が出てきたとしても、替えることが難しい。
一方、まだ1枚も交替のカードを切っていない武州総合だが、源平を中心としたアップ強度があがっている。程なく切り出してくるだろう。
「向こうが替えてくるまでにもう1点取れればなぁ」
ふとそんな願望も漏れるが、ピッチ内は落ち着いている。
瑞江と立神が抜けたことと、入ったと思った得点の取り消しで若干落ち込んでいる。
そのため、武州総合がボールを持てる時間が少しずつ増えている。
ただ、前半ずっと走りまわっていたことで古郡も疲れてきたようでボールを追いきれない。
ボールを前に出しても、あっさりと高踏が回収するし、回して繋ぐほどには余裕がない。
どちらも攻め手を欠く展開のまま後半15分を迎えた。
ここでようやく武州総合・仁紫が動く。
サイドラインに3人並んできた。その中にはもちろん一際身体の大きい背番号10をつける源平和登の姿もある。
15分過ぎ、古郡に替えて源平、更に両方のサイドハーフ志田と本山を下げて、里川直斗と里川蹴斗の双子2人を同時起用してきた。
双子だから連携が良い、というわけではないが。
「同じサイドのウイングとサイドハーフに入ることが多いので、よく見間違えるそうです」
という情報を、高幡舞からは受けている。
交代に応じてフォーメーションも変わるようだ。前半は4-2-3-1という布陣だったが、源平を頂点にしてその下に里川直斗が入り4-4-1-1といった形となる。
源平をターゲットにしてボールを集め、その周囲を里川直に走らせるつもりだろう。
「大きいなぁ……」
陽人は源平を見て思わず声をあげた。
ピッチ内の源平の存在感は圧倒的だ。そばにいる武根との対比でよく分かる。
181センチで77キロの武根は高校生ディフェンダーとしては十分大型に入るはずだが、101キロの源平とは四肢も体の厚さも違い過ぎる。
(これは1対1では勝てそうにないな)
これだけの大型選手であれば、スタミナは無さそうであるが、試合時間残り20分は走り切れるだろう。その間、競り合いで勝てることはほぼないと見て良さそうだ。
ただ、獲れないにしても、しっかりと競る。セカンドボールを受ける側をしっかりとチェックする。稲城や久村がセカンドボールを簡単に取らせず、道明寺がカバーする。
1人で無理でも組織で抑えていくことは不可能ではない。
中盤の楠原にボールが入った。
ハイボールかと思いきや、低いスルーパスを武根と道明寺の間のスペースに出した。
そこに源平が走ろうとする。大柄だが、スピードに乗ればかなり速いらしい。
だが、そこは武根が早めに体を当ててスピードを殺した。源平はスピードの乗れずにボールを道明寺が収める。そのまま稲城、戸狩と繋いで颯田にボールが出た。
武州総合は追いかける立場でもあるし、攻撃的な交替をしたことで、今まで以上に意識が前寄りになっている。1人2人かわせば、高踏側はカウンターチャンスとなる。
シュートを打つと見せかけた颯田が縦に入った。かわしてクロスをあげ、浅川が飛び込んできた。
結菜と我妻が立ち上がる。
「行け、光琴―!」
しかし一瞬後、2人そろって頭を抱える。
「ちょっとーっ!? 何でその距離で外すのよ!」
ゴールエリアのラインから打った浅川のシュートは、ほぼ真上と思わんばかりに高く打ち上げられてそのままクロスバーの上を超えていってしまった。
浅川が顔を覆い、颯田も思わず天を仰いだ。
その瞬間を見逃さず、清井に替わって紺谷がボールを蹴りだした。浅川と颯田が一瞬戻ることを忘れた分、下がって受けた坂峯に前線のプレスがかからない。坂峯がドリブルで進むとやむなく久村がついて、今度は楠原のマークが外れる。
楠原がフリーでボールを受けた。一度前に軽くタッチし、そこから一気に突破を狙うかのように突っ込んでくる。そうなると楠原につかざるをえなくなり、1人1人がずれてくる。
エリアに近づいた楠原がゴール前に斜めにパスを出した。
源平がスピードをあげてゴール前に突っ込んでくる。僅かではあるがプレスのズレで武根がぶつかりきれない。急いで追いかけるが、源平が僅かに早く左足を振り抜いた。
シュートが鹿海の左下を抜けてゴールネットまで転がっていく。
後半24分、試合は2-2の振り出しに戻った。
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