6月12日 16:33 部室
取材が終わった後、陽人は後田と結菜達を呼んで、週末の東海総体に向けた話をする。
「とりあえず練習後と明日、疲労度をチェックして20人を決めよう」
東海総体は最大で2日で3試合を行う日程となっている。
当初、我妻が30人登録できると言っていたが、背番号を30まで入れられるだけであり、登録人数自体は総体本戦と同じ20人であった。
こうなると戦術どうこうというより、疲労回復の早い選手を優先して入れていくしかない。血中にある物質の酸化度などによって疲労の残り具合をチェックし、回復が遅い選手は外すというものである。
唯一の例外は、ゴールキーパーとフィールドプレイヤーを兼ねられる鹿海だ。
ゴールキーパーは他のポジションに比べると若干プレー強度は低い。キーパーを須貝と分け合い、前線でプレーする機会を与えれば負担を軽減できるからだ。
練習や試合での疲労からを測るため、練習が終わると、採血をする。
そのうえで翌朝、再度血液検査をする。こちらは前日からの回復度を測るためだ。
その結果を、大溝ジムの医師に確認してもらい、結果を出してもらう。
「色々な要素があるから、一概に言えないのだけど……」
連戦でも戦える選手の特徴はそもそも疲労しにくい選手であるか、疲労はするけど回復の早い選手である。両方が同じ傾向であれば分かりやすいが、個人によってまちまちである。
トータルの測定結果で順位付けをした場合に近い順位でも使い方が同じとは限らない。例えば二日目の連戦に関しては、回復の早い選手よりは疲労しにくい選手の方が向いているからだ。
しかし、ポジションや他の選手との兼ね合いもある。そこまで厳密に分けることは不可能だから、大まかに分けてもらうしかない。
「大体、こんな感じになるかな……」
と言って、検査した医師は疲労への強さを高・中・低に分けて書きだした。
高:稲城、立神、颯田、鈴原、園口、鹿海、戸狩、曽根本、浅川、神田
中:瑞江、陸平、武根、櫛木、久村、道明寺、須貝、加藤、弦本、聖恵、神沢
低:芦ケ原、林崎、篠倉、石狩、南羽、司城、戎、神津、水田
「左サイドばっかり」
というのが結菜の第一声。
事前の方針では、回復度が高い選手は優先的に登録するつもりであった。
ただ、稲城、園口、曽根本、神田と左サイドに登録している選手が全員入っている。
「……まあ、希仁は便宜的な部分だから右ウイングもできるし、耀太も中盤が出来るけれども」
「チームに一番なじんでない光琴が、チーム三番目に回復力が高いのも厄介な話ねぇ」
「結菜、友達を厄介って言ったらダメだぞ。浅川は背も高いし、スピードがあるから最悪前線で走り回らせるだけでも効果はあるし」
「レギュラー組の芦ケ原さんと林崎さんはどうするの?」
「そうなんだよな」
レギュラー組はできるだけ使いたい。ただ、回復度が低い、という面々は事実上一試合しか使えないと言って良いだろう。20人で3試合する場合に、これは大きなハンデとなる。
しかも、芦ケ原はこれまでちょくちょく試合中に小さな故障をしているケースがあった。これまでは不運だと思っていたが、ひょっとしたら、回復度の低さが繋がっているのかもしれない。
「低いと出た面々は外すしかないだろうな……」
「戸狩さんは?」
30分以上プレーすると強度が極端に落ちる戸狩だが、回復力自体は高いらしい。実際、選手権でも毎試合出ても30分までは問題なかったから、これもデータは確かだろう。
「総体は前後半35分だ。5分とロスタイム分長くなることに目をつぶって、毎試合後半から起用できると考えれば有意義だろう」
「ジュニアユース組は戦力として期待したいけど、総じて回復力が低いね」
「それは仕方ないんじゃないか」
ジュニアユースの日程はプロに近い。中一日とか連日といったスケジュールはそもそも設定されないし、そうした環境で練習をしているから体が連日の試合に慣れていないだろう。
「回復力が高いメンバーと中程度のメンバーを合わせると21人だが、聖恵は回復力と関係なく試合出場は無理だろうから自動的に20人になる」
聖恵貴臣は昨年からずっと身長が伸び続けており、現在は163センチ程度まで伸びてきている。これでも平均よりはかなり低いが前年の同時期に比べると17センチ伸びていて、まだ体格がそれについていっていないし、成長痛も頻繁に起こしている。
「この20人で行くか」
①鹿海 ②曽根本 ③神田 ④久村 ⑤颯田 ⑥陸平 ⑦瑞江 ⑧稲城 ⑨園口 ⑩浅川 ⑪立神 ⑫須貝 ⑬加藤 ⑭弦本 ⑮武根 ⑯戸狩 ⑰神沢 ⑱道明寺 ⑲櫛木 ⑳鈴原
「レギュラー組に(曽根本)英司と(道明寺)尚を入れることになるかな。二試合目以降は体調を見つつ起用していくしかない」
後田が「さすがにそれは」と苦笑した。
「ポジションが無茶苦茶になるぞ」
「最終的にはポジション関係なしのサッカーができるようになりたいんだ。その練習としてはちょうどいいと受け取るさ」
陽人は半ば自棄気味に言った。それを聞いた結菜が苦笑して尋ねる。
「となると、インターハイ本戦も練習になるわけ?」
「……半分くらいは、な。選手権もそうだったけれど、相手どうこう、サッカーどうこうというだけでなく、メンバーのやりくりで必死になるんだから。どうしようもないよ」
「まあ、そうヤケッパチに言うなって」
後田も苦笑しながら、宥めるように言う。
「希仁風に言えば、こちらは苦しいけれど相手も同じ条件だ。幸い応用力は高いし、スクランブル体制でも何とか戦える高踏の強みを発揮できるんだ、って考えて行こうぜ」
確かにその通りだった。
レギュラー・サブをとっかえひっかえで選手権ベスト4まで行けたという実績があるのだから。
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