12月29日 16:00

 一回戦の会場は忙しい。


 第一試合が終わると、すぐに第二試合の準備が始まる。


 第二試合、西海大伯耆と東奥工業のメンバー発表がされ、ピッチ上では選手達が慌ただしく練習を始めて、急ピッチで準備が進む。



 周囲にいた高踏の応援団は全員帰ってしまったが、藤沖や結菜達は引き続き第二試合も観戦することにした。


「さて、大会注目・大野弘人はどういうプレーをするのかな……」

「初戦で瑞江さんがいきなり4点取ったので、プレッシャーかかっているかもしれませんね」


 目の前で鮮烈なパフォーマンスを見せられたので、気負って期待外れになる。そんな期待交じりの願望もあったが……



 前半が終わった時、スコアは第一試合と同じ3-0。西海大伯耆がリードしている。


 唯一の違いは得点者。第一試合は瑞江の3得点だったのに対して、第二試合は大野が2得点、長身のブラジル人DFフアンが1点をあげている。


「うーん、オーソドックスだけど強いねー」


 藤沖含め、全員強いと認めざるを得ない。


「ポジティブな要素を探すとすれば、このチームは大野とフアンの影響力が大きくて、チーム自体はそれほどでもないかな。高踏のハイプレスがある程度嵌るかもしれないけど、それでも……」

「あの絶対的な個にはやられそうですよね」


 大野はボディバランスがとにかく良い。そして上手くて、速くて、強い。


 88分間、プレスとポジショニングで防げるかもしれない。しかし、残りの2分、3、4プレーさせれば少なくとも2点は取りそうだ。




 そこに着替えなどが終わった陽人達がやってきた。


「どんな調子だ?」


 結菜は無言でスコアボードを指さす。


「見ての通り。やっぱりオリンピック代表ともなると凄いわね」


 陽人達もスコアボードを見て「なるほど」と頷いた。めいめい近くに腰かける。


「インタビューとか終わったの?」

「真田先生はまだ受けているけど、俺達は終わった」

「瑞江さんも?」

「……俺のは、宿舎に帰ってから」


 瑞江が面白くなさそうに答える。


 とはいえ、「期待の1年ストライカー」がいきなり4得点である。更に取材が増えるのは当然とはいえた。


「面倒くさいよ。大野さんが6点くらい取って、取材を全部集めてほしいくらいよ」


 そうぼやく瑞江に、周囲は苦笑いを浮かべる。



 後半が始まった。


 リードもあるので、西海大伯耆は仕掛けることはない。東奥工業が攻め込んでいくが、フアンを中心にしっかりと守り、ボールを奪うとサイドを経由して早い段階で大野を目指す。大野がポストとなって受けた後、反対サイドに展開したり、反転して切りこみを図る。


 切れ込んでシュート、サイドに振ってクロスにヘディングを合わせる。


 いずれも良いシュートだが、若干コースが甘かった。


 2得点しても尚、積極的に狙っているが、中々ハットトリックには到達しない。



 後半15分まで試合は3-0のままである。


「西海大伯耆は無理する必要もないけれど、どうするのかな?」


 選手交代などをどうするのか?


 陽人は両チームのベンチの様子を確認する。


 負けている東奥工業は多くの選手がアップしている。一方の西海大伯耆は一人だけだ。


「ここから逆転されることはないと思うけどな……」


 高踏のように実質的な戦力が20人というのなら仕方ないが、西海大伯耆はそういうことはないだろう。


 もう少し柔軟に替えてもいいのではないか。


 そう考えているうちに、大野がエリア外から豪快なシュートを蹴り込んでハットトリックを達成した。


「うわー、凄いなぁ」


 全員が舌を巻き、誰かが言う。「これは止められんわ」と。



 これでますます替えて良さそうになったが、西海大伯耆はメンバーを引っ込めない。


「大野さんに4点目も取らせたいのかな?」


 陸平が独り言のように言う。


 それはありうる、と陽人は思った。


 目の前で4点取ったいる選手がいる以上、大会ナンバーワン選手として追いつきたい、又は周囲が追いつかせたいと考えるのは不思議ではない。



 33分、先程と同じような形で大野がボールを持った。


 一人かわして、ミドルシュートのコースが空いた。


「チャンス!」


 瑞江と颯田がほぼ同時に叫んだ。ディフェンダーが間に合わないと見つつも飛び込む。


 が、大野はシュートではなくパスを選択した。シュートと決めつけたディフェンダーの裏に10番の杉本大機が走り込み、難なく決めて5点目を取る。


「シュートだけでなく、パスも出せるっていうところを見せたわけか」


 颯田がむむぅと唸りながら言う。


「あるいは達樹がPKを蹴らなかったことを知っていて、取れる1点を取らなかったのかも」


 陸平の言葉に颯田が「気取っているなぁ」と悔しそうに言う。



 試合は5-1で終了した。



 1回戦が終わり、得点王ランキングのトップは4得点の瑞江達樹。1点差で追いかけるのは大野弘人。その下、2得点には5人が並んでいる。


 得点王ランク1位と2位を擁するチームが2回戦で対戦する。


 周囲の期待は自然と高まっていく。

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