10月22日 8:44
朝、目が覚めるとインターネットで、他県の状況を確認してみる。
何試合か決勝がやっているが、目に留まったのは奥州第一と北日本短大付属の決勝戦。
練習試合も行った間柄同士である。
この試合は時間が来たらチェックしてみようと思った。
瑞江にも話した通り、今日はほぼ何もしないと決めている。部室に集まった面々もサッカーではなく、バスケットや他のことをやっても問題ないだろう。
それだけを決めると7時に家を出た。
8時前に着いて、部室のテレビがネット対応かどうかを確認する。問題ないようだ。
しばらくテレビを眺めている。
さすがに決勝の翌日だけあって、8時半前に来る者はいない。
と、突然、部室の電話が鳴った。
電話があることは知っていた。しかし、今まで一度も鳴ったことがないのでびっくりして飛び上がりそうになる。
慌てて受話器を取った。
「もしもし、天宮……じゃなくてサッカー部の部室ですけど?」
『あぁ、人がいたんだ。良かった。実は正門の方にサッカー部の見学をしたいという中学生が来ていてね』
「中学生?」
『追い返そうかとも思ったけど、来年入部したいのでちょっと見学だけしたいと言っているから、まあ、一応聞いてみるだけ聞いてみようと思って』
「はぁ……」
そういうこともあるのかもしれない。
全国大会に出たことで、関心を集めて、「ここでサッカーをやってみよう」と思う地元の中学生が増えることは想定できた。
「……分かりました。生徒手帳か身分証は持っていますか?」
断ろうかも思ったが、入学希望者をすげなく追い返すのはまずいだろう。
と言って、誰かれなく見学させると、不測の事態が起きるかもしれない。生徒手帳か、本人の資料か、最低限確認できる体制は取った方がいいだろう。
『……じゃ、学生証をコピーしておくよ』
「お願いします」
他に条件などを課すべきかもしれないとも思ったが、それは校長その他に決めさせたほうがいいだろう。
上がってくるのを待っていたら、先に瑞江と稲城、颯田の三人がやってきた。
「おー、さすがに決勝直後、誰も来ていないのか?」
「この後、中学生が見学に来る?」
「中学生? 結菜ちゃん達じゃなく?」
「多分、県予選を制覇したから、中学生でも関心をもったのがいるんじゃないかな?」
「あ~、なるほど。それはいいじゃん」
責任者でない分、三人は気楽なようで道路まで出て登ってくる者を待つ。
そうなると陽人も付き合って、待つしかない。
しばらく待っていると、下から三人組の同じジャージー姿の少年が現れた。
「見事に大・中・小という感じだな」
颯田の言う通り、三人の背丈はまさに大中小だ。おそらく160、170、180くらいだろう。
三人は上がってきて、グラウンドを見て「おおぉ」と驚いている。
「うちのグラウンドとほとんど変わらない」
「部室も同じくらいだ」
「県立高でこれは凄い」
聞きようによっては、やや失礼なことも言っている。
「君達が見学希望の子?」
陽人が問いかけると、中が振り向いた。
「はい! 司城蒼佑です! こっちが戎翔輝で、この大きいのが神津洋典です」
「わざわざ来てもらって悪いんだけど、昨日が県大会の決勝戦で、ね。今日は半分オフみたいなものなんだ。練習らしい練習はしないよ」
陽人の言葉に、司城以外の2人が「やっぱり」という顔になった。大小の2人はその可能性を考えていたのだろう。
もっとも、司城は物おじする様子もなければ、ガッカリする様子もない。
「昨日の決勝を見ていましたが、どうやればあんな風なスタイルで戦えるんですか?」
「どうやれば……」
陽人は瑞江達を見た。
「どうやれば、と聞いているがどうなってああなったんだろう?」
「分からん。最初からああいう感じのものしかやっていないが、具体的に何をやったからああなったのかはさっぱり分からん」
「気づいたらある程度形になっていたようなものですよね。そもそも、私は他のやり方の方が分かりませんし」
三人の答えは非常に曖昧である。
陽人としても、何が決め手なのかはさっぱり分からない。
だから単純に、これまでの経緯を説明することにした。
「本来は藤沖さんという良い監督が来るはずだったんだけど、来られなくなったからね。だから、来るまでのつなぎとして前から前から行くサッカーでもやっておこうと思ったんだけど、藤沖さんが結局来なくなって、これしか出来ない感じだね」
「でも、あれだけ早いスタイルでボールを繋ぐのは大変ではないですか?」
「俺は試合に出ていないけど、どうなんだ?」
司城の問いかけに、陽人はもう一回三人に尋ねる。自然、2人の視線は一番サッカー歴の浅い稲城に向いた。
「あの速さで動くということは分かりますので、繋ぐだけなら……。かわしたり、見栄えの良いプレーはできませんけど」
「俺も同じだなぁ。達樹ほど技術はないけど、もうそういう速さで動くものだと分かっているから」
「要は相手が欲しいところにきちんと繋いでいればいいわけでして、芸術点の高さを競うわけではないですからね。それは動きのメカニズムが分かればできるのでは?」
稲城と颯田の会話に、中学生三人が「すごいな」と感心しているが、はたと戎が気づいた。
「……藤沖さんがいない間、誰がそういう方針でやっていたんですか? あの動かない人?」
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