10月14日 14:41

「あれ、天宮さん?」


 不意に後ろから声がしたので、振り返ると、そこに辻佳彰の姿があった。


「こっちにいたんですか? さっきまで深戸学院の人達がいたところなので、反対側を探していましたよ」


「あぁ、空いてなかったんでね。宍原から席をもらった」

「待っていてください。みんなを呼んできます」


 辻はすぐに他のメンバーを呼びに行った。



 5分ほどで、結菜達がやってきた。


「こっち側にいたんだ」


 全員が同じようなことを言っていた。さっきまでの対戦相手だった深戸学院の応援団席にいるという発想はなかったようだ。


「それはいいとして、鳴峰館のゴールキーパーって分かるか?」

「そこまでは知らないけど、過去のメンバーはあたれるわよ」


 結菜はそう言って、端末を開いた。


 ネット回線は込み合っているようだが、あらかじめデータとして入れていたようで返事が早い。


「メンバー表を見る限り、1番の小野さんという人がずっと出ているわね」

「1番?」

「どんなゴールキーパーかは知らないけど。どうかしたの?」

「練習を見ていると、16番が出て来そうだから」


 陸平の方を見た。「確かに16番だったよな?」と問いかけると。


「僕にはそう見えたけど……」


 やや自信なさげな声が返ってきた。


「まあ、もうすぐスタメン発表だ。それを聞けば分かるだろう」



 陽人の言う通り、程なく場内にスターティングメンバーの発表がされる。


『オレンジのユニフォーム。鳴峰館高校。GK、16番、醍醐智道』


 やはり16番であったが、ここに来てわざわざ背の低いGKを起用するというのは不思議だ。


準決勝第二試合スターティングメンバー:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16817330668712134279


「準決勝からいきなり起用ということは、正GKは負傷でもしたとか?」

「そうだとしても、あの身長で大丈夫かな?」

「いや、身長が低くても、腕が長ければゴールキーパーとして行けるんじゃないかな。身長イコール高さではないのはバスケも同じだし」


 篠倉の言葉に瑞江も頷いている。


 身長も千差万別だが、腕の長さも個々人によって大分変わる。仮に腕が長ければ、ハイボールにも対処できるし、セービング範囲や守備面での威圧感が変わってくる。


「いわゆるウイングスパンだよな。でも、見た感じ醍醐さんはそんな感じでも無さそうだが……」


 練習を見ているだけでも、ハイボールに苦労している様子が見える。


「第三GKはもっと酷いということかな?」

「俺みたいに?」


 過去1試合も出ていない後田雄大が自虐気味に言い、一同苦笑した。



 GKに関する疑問は試合開始と同時にある程度解消された。


「おっと、随分前に出て来るな」


 鳴峰館がボールを保持している際、醍醐はペナルティエリアの外にまで出て来て相手のカウンターに備えている。鹿海と比べるとやや深いが、これまで、自分達以外のチームでゴールキーパーがエリアの外まで出て行くのは見たことがない。


「……ひょっとしたら、1番もいるけど、俺達対策で16番なのかもしれないな」


 瑞江の言葉に、なるほどという声が出る。



 鳴峰館は第二シードで、実際、県内でも二番目の評価だが、それでも深戸学院ほどには戦力がない。


 深戸学院を倒した高踏に勝つとなると、多少リスクを冒してでも勝ちにいくしかないと指揮官が考えたとしても不思議はない。キーパーを前目に出し、とにかくコンパクトな布陣を、という発想はありうる。



 珊内実業は3-5-2の布陣だが、鳴峰館のプレスが機能していて思うようにボールを回せない。



「厄介そうだけど、プレスの精度やスピードは高踏の方が上かなぁ」


 結菜の言葉に、全員が同意する。


「フォワードの真剣さが薄い感はあるよね」


 鳴峰館は4-4-2で中盤はひし形のようだ。


 2トップは韓国出身で長身のイ・サンホと、小柄な冨士谷来夢のコンビである。どちらも守備の際にプレスをかけに行っているが、稲城や颯田のような迫力はない。


「ただ、パス方向に制限をかけているから、悪くはないと思うけどね」


 陸平の言う通り、全力ではないが中央へのコースは切っている。珊内実業のディフェンダーはキック精度が高くないようで、コースを一つ切られただけで回すのに四苦八苦しているし、ミスで失うことも多い。


 結果として、7:3くらいの割合で鳴峰館が攻めており……。



「おー、ナイッシュー」

 前半19分には左サイドでボールを奪い、一気に冨士谷に通した。冨士谷はそのまま抜けて先制点を奪う。



 その後も鳴峰館のチャンスが多いが、追加点は奪えない。


 そのまま時間が過ぎていくうち、次第に鳴峰館の動きが落ちてくる。珊内実業もボールを回す時間帯が増えてきた。


「うわ~、やっぱり危ないなぁ」


 珊内実業は前線に長身の選手がいることもあって、ロングボールを単純に放り込むシーンが多い。ところが、それを醍醐がうまく処理しきれず、二次攻撃に繋がるシーンが多い。


 34分、珊内実業が同点に追いつく。


 10番の小城要人が距離のあるところからミドルシュートを放ち、これが見事にサイドネットに突き刺さった。


「ナイスシュートだけど、長身キーパーだったら手が届いていたかも、ね」



 前半は1-1で終了した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る