10月14日 10:45
準決勝。
深戸学院対高踏は午前11時からの第一試合であるため、出発は6時近く。
バスに乗って高速を走り、通勤ラッシュとなる前に市内に入り、港の方にある会場へと向かう。
7時半前に会場に着いた面々は、入口を観てびっくりする。
「うわ、すごい人だな……」
並んでいるだけでも1000人近くはいるだろう。
試合開始三時間前からこれだとなると、試合が始まる頃にはどれだけいるのだろうか。2万人収容の会場だが、かなりいい線まで行くかもしれない。
「さすがに準決勝は違うなぁ」
それだけではない。バスから降りると、その様子を撮るカメラマン達がいた。
準決勝以降はローカルテレビでの放映がある。規模も雰囲気もこれまでの試合とは全く違う。
「一年目でこんなところまで来るとはなぁ」
園口の言葉に立神が反応した。
「ということは、二年目三年目では来るつもりだったわけか?」
「いや、そういうわけではないけどな」
「ここで話していても人が集まるだけだ。早く中に入ろう」
真田が珍しく顧問らしいことを言い、一同もそれに従った。
9時過ぎになり、準備運動をしながら待つ。
10時が過ぎて、グラウンドでの練習も始まった。
出て来るだけで大声援だ。深戸学院の練習よりも受ける声援が多い。
「世間的には一年軍団が全国という方が話題になるし、期待も大きいんだろうなぁ」
真田が腕組みをしながら、うんうんと頷いている。
「そうなるためにも、たまには顧問の神通力でも期待したいんですが」
陽人が声をかけると、真田はベンチの椅子を指さした。
「俺があの椅子に座り続けることこそがご利益なのだ。動き回ると益が逃げる」
「本当ですかねぇ。大量点取られたら、椅子ごと前に出しますよ」
日頃は言わないような軽口が勝手に出た。
緊張している自分がいて、それを何とかほぐしたい気持ちがあるのだろうと感じる。
所定の練習が終わり、一旦引き上げる。
場内で両校の選手紹介が始まった。
『赤のユニフォーム、深戸学院高校。GK、1番、高田陽介』
ドンドンと太鼓の音が鳴る。深戸学院の応援団のようだ。
『DF、4番、杉尾達明。DF、5番、市田翔太。DF、15番、横山一郎』
「うん?」
陽人は「あれ」と思った。ここまで深戸学院の一軍の試合では背番号3の田中が出ていたが、その名前がない。
『DF、26番、谷端篤志』
「おっ?」、「何と」、「おや」
選手達も一斉に声をあげる。何度か高踏のグラウンドにも足を運んでいる谷端の名前が呼ばれたからだ。
「そういえば、あいつも登録メンバーだった」
「あいつも選手だったんだな」
という颯田や園口と言いたくなるのは、陽人にとっても理解できるところだ。
これは完全に予想外であった。
日曜日から相手のとりうる様々なことを考えていて、およそ100パターンほど考えてみたが、谷端が試合に出るということすら考えていなかった。
もちろん颯田や園口のように登録選手であるということを知らないなんてことはないが、そもそも、どういう選手なのかということすら知らないからだ。
ただし、発表されると十分にありうる作戦ではある。谷端は宍原と並んで、もっとも自分達のやり方を知っているし、個々の能力値についても知っているだろう。深戸学院の登録メンバーに入るのだから、当然、能力としても高踏の標準メンバーよりは上のはずだ。
(宍原を登録メンバーに入れていたら、ゴールキーパーもあいつだったんだろうか?)
そこから先の発表メンバーは予想通りであった。
高踏の先発も、これまでと同じである。
試合開始まであと15分、スタンドのボルテージが上がっていくことが控室からも感じられた。
スタメン:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16817330667741319238
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