テクニカル・エリア

川野遥

入学前

3月26日

 天宮陽人あまみや はるとがそのニュースを聞いたのは、クラブ帰りのラーメン店内だった。


『それでは地域のニュースに移ります。今日の午前11時頃、一殿市いちのとのし林本橋はやしほんばしの交差点付近でワゴン車と乗用車が衝突しました。この事故で、乗用車に乗っていた高校教諭の藤沖亮介ふじおき りょうすけさんが腰の骨を折るなど重傷を負い……』


「えっ!?」


 陽人は唖然としてテレビに視線を向けた。

 現場らしい道路と、前が見事にへこんだ乗用車が映っていて、『重傷・藤沖亮介さん(47)』とテロップが出ている。


「……」


 程なくして、メッセージが届いた。送信主は陸平怜喜むつひら れいきだ。


『陽人、ニュース見た? 藤沖先生、事故で重傷だって』


 陽人もすぐに返信を返す。


『見た。半年くらいは監督できないかも』




 藤沖亮介は、去年十一月まで樫谷かしや高校のサッカー部監督を務めており、この春から高踏こうとう高校サッカー部監督に赴任する予定だった。


 高踏高校は県立高校としては三、四番目という進学校であり、これまでサッカー部は目ぼしい成績をあげていない。


 しかし、二年前にサッカー好きのOBが「母校のサッカー部強化に役立ててほしい」と高校のそばに作った二面のグラウンドを寄付し、これを受けて市と学校がサッカー部強化に乗り出していた。


 その結果、ここ数年でほぼ県内ベスト8常連の樫谷高校監督の藤沖を新年度から招聘することが決まっていた。


 藤沖が来る、ということで私立進学を考えていた県内の選手数名が高踏を受験した。

 陽人と陸平もそうした手合いだ。

 彼らの友人も多く受験して、通った者も多いという。


 それなのに、間もなく入学、というタイミングでその藤沖が重傷を負った、という。

 これから、強くなろうというチームが出だしでいきなり躓いた。


 この先、どうなるのだろうか。

 不安が押し寄せてきた。

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