第33話

アレンは先輩と向かい合う。


「さてと、はじめるか。受けてやるから構えたところに打ち込んでこいよ」


「はい」


アレンは構えられた部分に木刀を打ち込む。


打ち合わされた木刀はカンと高い音がする。


「木刀ってこんな音がするんですね」


「それがどうかしたか?」


「アリアの修練中の音と違うから・・・」


「あぁ。嬢ちゃんが怪我しないように特別製のを使ってるからな」


「そうだったんですね」


「ほら、そんなことよりもっと打ち込んでこい」


「いきます」


アレンは先輩の構えたところに木刀を打ち込んでいく。








しばらく打ち込んでいると先輩達の溜まり場の扉が開く。


出てきたのは先輩の1人だ。


「おっ。やってんな」


アレンは打ち込む手を止める。


相手をしてくれていた先輩が振り返る。


「そろそろはじめるのか?」


「嬢ちゃんの準備運動が終わったからな」


そう言って先輩は扉を開けたまま中に戻っていった。


相手をしてくれていた先輩が肩を組んでくる。


耳元に口を寄せて小声で言ってくる。


「姿が見えなくてもお互い頑張ってる音がした方がやる気が出ると思ってな」


「気を使ってくれたんですか?」


「俺らもそっちの方がやる気が出るからな」


そう言うと先輩は肩を叩いてくる。


中からはアリアの相手をしているであろう先輩の声がする。


「まずは嬢ちゃんが動いてみろ」


聞き取りずらいがアリアが「はい」と言ったのが聞こえた。


アリアが修練をはじめたようだ。


「聞き入ってないでこっちもするぞ」


「あっ。はい」


アレンは打ち込みに集中する。


「もっと強く打ち込んできていいよ」


アレンは先ほどよりも強く打ち込む。


先輩はしっかりと受けてめていた。


「先輩。受けるのうまいんですね」


「守れた方が長生きできるからな。でも、攻めも下手ってわけじゃないんだぜ」


「へぇ」


「まぁ、お前に怪我させたくないからしないけどな」






建物中からはいつの間にかパンパンという音がしていた。


アレンはアリアが頑張っているのだと思い必死に木刀を打ち込んでいく。


どれぐらい経ったのかわからないが先輩が声をかけてくる。


「色々きてるだろ」


「打ち込みって素振りとは全然違うんですね」


「道主がお前らぐらいの歳の奴に素振りしかさせない理由だよ」


「これがですか」


「握力なくなって木刀が吹っ飛んだら相手も自分も危ないだろ」


「確かに・・・」


自分の打ち込みの音で聞こえていなかったが止まると中の音が自然と聞こえてくる。


先ほどよりもパンパンなっている音が大きく短い気がする。


「嬢ちゃんは猛攻を耐えてるみたいだな」


「音だけでそんなこともわかるんですね」


「何度も修練の風景はみてるからな」


「さてと、俺は1回休んでくるわ。次の相手、呼んどいてやるよ」


そう言って先輩は溜まり場の建物の中に入っていった。

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