ホイポイ〜ホイホイ体質はポイポイ体質に恋をする

真田

1. 今日も風馬は寺本をストーキングしている







 今日も風馬ふうま寺本てらもとをストーキングしている。

 あわよくばさりげなく接近しようとしている。

 早く、早く彼に触らないと……







 風馬は寺本と同じ高校に通う2年生だ。

 クラスメイトではない。

 部活も委員会も何も接点がないターゲットを観察・追跡する生活は結構ハードである。


 とりわけ放課後の寺本には規則性がない。

 下校するタイミング、メンバーやルート、交通手段さえも日々違う。


 風馬は寺本について幾つか確信を持っている。


 例えば、彼は帰宅部である。

 放課後の校内や近所のファミレスで、誰かしらとだべりながらスマホや課題をする。

 あちこち寄り道することもあれば、まっすぐ帰宅することもある。


 住所は高校から2キロくらいのエリアにある。基本は徒歩通学。

 その日の都合か天候か何かによっては自転車やメトロや都電を使う。


 寺本のインスタのアカウントも、既に風馬は見つけている。


 実名で検索しても出てこなかったが、高校の同級生たちの繋がりを辿ればわりと簡単に発見できた。

 ただ、あくまでも学校用アカウントだろう。ここにプライベート色の強い情報は浮上しない。

 ゆえに風馬が見ている寺本は、学校用の彼である。


 彼はよく喋っている。

 彼の世界にはどこにでも話し相手がいる。

 そこには不安も緊張も、愛想も愛着も窺えない。ただ呼吸をするように、一人で廊下を歩いていたり自席で日誌を付けていたりする時と変わらないエネルギー消費効率で、彼は涸れない泉の如く喋っている。


 彼は陽キャでも陰キャでもない。犬系でも猫系でも、優等生でも問題児でもない。

 文系にも理系にも、頭よさそうにもバカそうにも見える。

 彼は誰もおそれていないし誰も彼をおそれていない。


 それって多分最強だ。


 風馬にとってトランプのジョーカーだ。起死回生の切り札。唯一絶対の万能札。手に入れてはいけないババ。


 ……沼。


 風馬はこじらせつつある自覚があった。このままストーキングを続けていたら、多分きっと痛い目に遭う。444%叶わない恋みたいな種類の。

 だが風馬には、寺本に近づいて触りたい大きな理由がある。







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