第733話 お店に出発



「えっと、この先の通りをまっすぐ進んで、ブレッド屋さんを左に曲がって……」



 服装を整えて王都の上層区にやってきた俺……いや、私ことシューコ・ホワイトホーン。

結局カナリア寮でチュールさんに女装させられた後、前にプリペラと街娘の格好をして下層区を散策した時のように声質を変えるキャンディも食べさせられたので、今の俺は見た目も声も完全にいいとこのお嬢様だ。



「アリス・ボナペティートか……随分と可愛らしい名前の料理屋さんだなあ」



 チュールさんから貰ったお店までの案内マップを見ながら歩きなれない上層区を進んで行く。

今回予約してくれたチュールさんイチオシの高級レストランは『アリス・ボナペティート』という貴族のお嬢様に大人気のオシャレで美味しいお店らしい。



「というか、王女様のお付きメイドのチュールさん経由なら、予約紹介カードなくても大体予約出来たんじゃ……まあ、お店行けるしなんだっていっか」



 上層区のレストランは一見さんお断りだったり人気過ぎて予約が取れなかったりするお店が多いのだが、アリス・ボナペティートは予約が取れないというか、基本的には家に招待状が届いた人しか行けないという謎システムのお店らしい。



「それにしても、まさか予約紹介カードだけじゃなくて事前審査もされてたなんて知らなかったなあ」



 どこでも予約できるはずの予約紹介カードを使用して俺の為にお店の手配をしてくれたチュールさんだったが、お店の人から俺の転写画の提出を求められ、それによってお店側が予約を受けるかどうかを決めたらしい。

その時にチュールさんが持ってたのがメイド服の格好をした俺と街娘の格好をした俺の転写画しかなかったらしく、それを見せたら何故かOKが出て予約が取れたのだとか。いやなんでなん?



「ブレッド屋さんまで来たから、ここを左に行って……ってかこのお店のパンも美味しそうだなあ。でもダメダメ、今日は買い食いとかはしないようにしなきゃ」



 下層区や中層区では屋台も多く出ていて買い食いしてる人も結構歩いてるんだけど、上層区ではそういった感じのお店も人もほとんど見かけない。

俺も今は食べたい気持ちをグッと抑えて食事マナー完璧のお嬢様シューコちゃんとして街中を歩いていた、そんな時……



「もっちゃもっちゃもっちゃ……げっふぅ~! まあまあだな!」



「坊ちゃん、そろそろ屋敷に戻りましょう」



「今は父上がいるから帰りたくない! 次はあのブレッド屋に行くぞ!」



「さすがにこれ以上の飲食はお身体に障りますよ坊ちゃん」



 レストランに向かって通りを歩いていると、前から大きな車いすを2人で押す黒服の男性がやってくる。

そして2人が押す車いすには、トンホーンみたいな男の子が乗っていた……



「あ、デミグラくんだ」



 去年の戦闘訓練合宿ぶりにみたけど、相変わらず太っちゃってるなあ……合宿中にちょっとだけ痩せたんだけど、リバウンドで更に太っちゃったみたいだ。

自分で歩けないから付き人さんたちに運んでもらって移動かあ……なんか、うーん。



「む……そこの君!」



「えっ?」



 話しかけようか迷い、今はシューコだったと気づいて横を通り過ぎたんだけど、何故かデミグラくんが話しかけて来てしまった。

も、もしかしてバレちゃったか……?



「どこのお屋敷の子だい!? 僕が美味しいパンを奢ってあげるから一緒にお茶しようじゃないか!」



「デミグラ坊ちゃん、いきなりそのようなことを見ず知らずのお嬢様に言うのは……」



「うるさい! 僕はハンバーギ家の跡継ぎだぞ!」



 どうやらデミグラくんは俺に気付いたわけではなく、お嬢様姿の俺を気に入って普通にナンパをしようとしていただけだった。

な、なんかすごい嫌な気分……鳥肌立っちゃった。



「ご、ごめんなさい。私、太っている人はちょっと……痩せてから出直せトンホーン☆」



「うわあああああああああああああああああああああああああっ!?」



「くくっ……デ、デミグラ坊ちゃん、お屋敷に帰りましょう」



「お嬢様、突然失礼いたしました。良い一日をお過ごしください……さあデミグラ坊ちゃん、女性に振り向いてもらえるように頑張って痩せましょうね~」



「ああああああああああああああああああああっ……!!」



 デミグラくんは泣きながら車いすを押されて帰っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る