三話 同士
俺「今日はどんと疲れたな。家に入るか」
家に入ったら、とりあえず広い空間で走り回るとしよう。
戸を開くと、想像と全く違う空間が広がっていた。
俺ら以外に人がいるじゃないか。
了斎「なんだこれ・・・・」
宰川は『家』って言ってたんだけどな。
了斎「もしかして、宿舎か?」
俺「ということは・・・・俺たちが使えるのって一部屋だけ・・・・・・?」
まぁ、よく考えると候補生に豪華な一軒家が用意されるはずがないか。
とはいえ十年間続けてきた野宿に比べたら極楽浄土のようなものだと思い受け入れた。
たまに宿に泊まれるお金を手に入れた時は、見張りを交代しながら寝る必要が無いことに感動してたな・・
管理人のような者がいたので話しかけてみた。
了斎「候補生の了斎と清次です。わしらの部屋はどこにありますか?」
管理人「あの通路を通って奥へ行けば六号室の看板が見えてくるから、そこが君たちの部屋だ」
管理人が通路を指さして言った。
俺・了斎「ありがとうございます」
管理人「ところで、君たちは説明を聞いたかな?」
説明・・この宿舎の説明は全く無かったか。
俺「いいえ、何も」
風呂は不定期で他所に行って入るらしい。食事は宿舎の皆でするそうだ。
ちなみに宿舎内では配布される袴を着るとかなんとか。
了斎「了解です」
管理人「そして、夜の十時になったら外出しないこと」
了斎「なんでですか?」
どうやら、少年を狙う変態が増えているらしい。男女問わずだ。
宰川軍の領地とは言え、安全に配慮してこういう規則になっているそうだ。
了斎「ありがとうございました。これからお世話になります」
管理人「はーい」
管理人がにこやかに送り出してくれた。
まぁ、優しそうな人なのでひとまず安心だ・・・・
六号室はこの宿舎の端にある部屋だった。
部屋には座布団、小さな机、寝床があった。
紙などはないが、城に近いので連絡に困ることはないだろう。
俺「二人で暮らすにしては少し狭いな」
布団はしっかりと二人分用意してあるが、寝返りは打てなそうだ。
了斎「そうだな・・とりあえず着替えよう」
了斎が服を脱ぎ捨てた。
俺「結構いい服で気に入ってたんだけどな・・」
了斎「この服を着ていたからカツアゲされたんだぞ。災いのもとだ」
了斎が袴を着ながら言った。
とはいっても、本当にいい服だったんだよな・・
部屋に置かれていた貸出の袴は、極めて上質なものだった。宰川軍のものだからか、そういったところは徹底して品質のいいものを選んでいるのだろう。
俺「これはいいぞ、質がいい上に軽い!」
了斎「だな、普段遣いでも全く困らない」
そう言って盛り上がっていると、広間から大きな声が聞こえてきた。
管理人「飯だぞーー」
暮らしていく上で『食事』はとても大切だ。果たしてこの宿舎の飯はどんなものか・・・・
俺「来たか」
広間に行くと、俺たちを除いて十人いるようだった。初めて全員の顔を見たが、俺たちとあまり変わらない年齢のものが多かった。
馴れ合いは嫌いなので、自分から関わることはないだろう。
俺「こんな豪華なのか・・・・」
両親が死んでからろくに食事もしていなかったので、宿舎の食事に感動したのは言うまでもない。
この食事が一般的に見てどれほどの物かは分からない。ただ、俺からしたら最高なんだ。だったらそれで十分じゃないか?大事なのは俺がどう思うかだ。
一回、凄く上質な魚を食ったことがあるけど、俺の口には合わなかったしな・・・・
了斎「早く食べよう」
了斎が目を輝かせながら言った。
俺たちは目にも止まらぬ速さで食べ終わったあと、すぐに部屋に戻った。
管理人は「何をそんなに急いでいるんだ」とぼやいていたが、気にしない。
これからの方針について二人でじっくり話し合いたかった。
了斎「まず、わしらは幹部を目指す必要があるのか? 生活するために武士になったのなら階級を上げなくてもいいのではないか?」
俺「いや、宰川殿をみて俺は気持ちが変わった。あの人についていきたいんだよ」
俺の中では既に『宰川殿』になっていた。
俺たちが何度も突っかかってしまったが、感情を出さず軍にとって利となるかを軸に考えることが出来るあの人は最高の将軍だし、信頼できる。
了斎「わしもそうだが・・」
俺「だろ? じゃあ、より宰川殿の近くで行動できるよう階級を上げるしかない」
幹部に早くなれるなら、さっさとなっておいて損はない。
まだ了斎は納得していないようだった。
了斎「それで幹部になったあとは何をするんだ?」
そんなのなってから考えれば良いと思うのだが。
俺「真栄田軍を叩き潰そうぜ」
親の仇が居る可能性があるって時点で攻撃対象だ。
あと、カツアゲしてきた野郎もついでにこらしめたいな・・
了斎「わしらが幹部になる前に真栄田軍との戦が始まったら?」
俺「二人で戦果を上げてすぐに幹部だ」
地割れが本当に使えるとしたら、一方的に敵を倒せる。
了斎「そしたら幹部になったあとにやることがないではないか」
俺「それもそうだな・・・・」
論破されてしまった。
俺「まあ、ここでそんなに頭を悩ませている暇はないな。今のことに集中しよう」
現在の最優先事項は、術を扱えるようになることだ。
了斎「鍛練は明日にして、ひとまず寝よう」
これ以上考えても答えは出ないと思い、俺たちは寝床に入った。
入ろうとした瞬間、部屋の戸が開いた。
起き上がって見ると、管理人だった。
管理人「君たち、歓迎会だぞ」
理解が追いつかなかった。
俺・了斎「歓迎会?」
管理人「一応同じ宿舎で暮らすんだからな。仲良くしてもらうために開くんだ」
洒落臭い事をするな・・
俺「馴れ合いは・・・・」
俺が断る前に了斎が「わかった。行こう」と言った。
管理人「みんなで待っているよ」
と言って管理人が広間に戻っていった。
俺「行かないでいいよな」
行ってたところで浅い関係の友人が出来るだけだ。
了斎「清次。そうやって人を敬遠していては、いつまでたっても成長できない。すぐに俺たちがこの宿舎から離れるとしても、こういったところでの縁は大切にするべきだ」
説教をされてしまった。
俺「そういうもんか?」
了斎「ああ」
乗り気ではないが、二人で広間へ向かった。
広間につくと、さっきの十人が俺たちを待っていた。
雷煌「はじめまして!」
年下の少年が真っ先に立ち上がった。
すこし面倒だが、了斎の言う通りにしよう。
俺「ああ、はじめまして。俺は清次だ」
了斎「わしは了斎だよ」
二人で小さくお辞儀した。
剛斗「よろしくな!また面白そうなやつが入ってきて嬉しいぜ!」
見るからに頭の悪そうな大柄筋肉男が言った。
雷煌「まず、みんなで自己紹介をしませんか?」
眼帯をつけた少年が言った。
俺「そうだな。名前も覚えないと話しにくい」
管理人「じゃあ、右回りに自己紹介してもらおうかね」
俺から順番にするらしい。
俺「さっきも言った通り、清次だ。幼少期に親が死んでいて十年間こいつと孤児として暮らしていた。地割れって術を使えるみたいだが、まだ修行不足で使いこなせていない。よろしくな」
全員から拍手が起こった。中々簡潔にまとめられたのではないだろうか。
全員の自己紹介が終わり、皆で話し始めた。
了斎「とりあえず皆良いやつそうだな・・・・個性は強すぎるが」
火蓮「何じゃ、無個性集団が良かったのか?」
と言った。
雷煌「火蓮はなんでそうやって一々突っかかるんですか」
眼帯をつけた少年の雷煌が蔑みの目を火蓮に向けた。
火蓮「そんな怒ることでもないじゃろ・・」
火蓮がぽつりと漏らした。
因みに、火蓮に性別はないらしい。細かくは分からないが、女性と男性の身体的特徴を併せ持っているそうだ。
顔は女性に見えるが・・胸がぺたんこなのは男の身体的特徴が現れているのか気になるが、失礼だと思って聞けていない。
美月「なんで新しい二人が入ってきてすぐアンタ達は喧嘩するのよ・・」
美月が冷たい目線を二人に送っている。
美月は妖艶な美女と言った感じだ。美月が話すときだけ話を聞き入ってしまうのは決して下心ではない。
翔斗「清次と了斎って同い年だよな? 少し離れているようにも見えるが・・」
確かに了斎は俺に比べて背が小さいからな。
了斎「確かに清次はわしに比べて精神年齢が低い。そう見えるのも仕方ないな」
俺「え、そっち?」
遠回しに翔斗は俺を貶してきたのか?
翔斗の術は人を守ることに特化しているらしく、そのためか翔斗自身もかなり豊満な肉体だ。
将英「どっちが上に見えるとかではないんだが・・同い年には見えないという感じだな」
将英が俺の事をかばってくれた。優しいなやっぱり!
将英は頼れる兄貴分という感じが醸し出されている。
実際、この中でも最年らしい。筋骨隆々の体も様になってるな。
霧島「俺は清次が年下に見える」
霧島が余計なことを言いやがった。
了斎「やっぱり霧島もそう思うよな」
了斎が霧島に同調した。都合のいいときばかり発言を拾いやがって・・!
雪村「私は清次が歳上に見えるかな・・」
と小さな声で雪村が言った。女神だ・・!
俺「やっぱり雪村は分かってるな!!」
正直抱きしめたかったが、流石に早とちりだと思いとどまった。
雪村も俺と同年代のようだった。小柄で可愛らしいな。
了斎「じゃあ、華城に決めてもらおうじゃないか一番頭が良い奴の意見が全てだぞ」
了斎が巻き返しを狙ってきた。
華城は『叡智』という術かどうかすら分からないものがあるらしい。
本人は術だと言い張っているが。まぁ頭がいいのは事実なのだろう。
英太「僕の意見は取り入れないんですか!?」
英太は術を使えないらしいが、親しみやすい性格なのでこの中で浮いているということは特になさそうだ。
華城「うーん・・我は同い年に見えるが」
華城が呟いた。
俺「あっ・・・・」
結局そうだったのか。
了斎「華城がそう言うなら・・そうなんだろう」
気まずい空気になった。
剛斗「オレは清次が歳上に見えたぜ!!!!」
剛斗が急に大声で言った。
驚かせないでくれよ・・
将英「剛斗、もう良いから」
立ち上がった剛斗を将英が座らせた。
まぁ、剛斗の性格は見ての通りだ。
最後に了斎の話をしておこうっと。
了斎は俺の幼馴染?親友?分からんが、とにかく仲はいい。
炎を扱う術を持っているらしいが、まだ使えていないから何とも言えない。
一人称は『わし』、俺に比べて常識人だからよく助けてもらっている。
俺「ちなみに、正式な武士になるにはどうするんだ?」
候補生は、半年に一度の試験に合格することで正式に宰川軍兵士となるらしい。
因みにその試験内容は毎回変わり、集中的な対策などは出来ないようになっているようだ。
了斎「その試験に落ちたことがある人は?」
霧島「英太だけだな」
想像通りだった。
失礼だが、この中で最も武士の才が無いのは英太らしい。
英太以外は鍛練にもっと時間を使いたいと思い、あえて試験を受けていないらしい。
ただ、俺はすぐにでも武士になりたい。
将英「では、次の試験で全員合格を目指し、鍛練に力を入れよう」
剛斗「そうだな!!!」
なんだかんだ、全員良いやつのようだ。
敬遠していればこの繋がりも生まれていなかったと考えると、了斎の言う事は正しかった。
やはり人との縁は重要なものだ。
管理人「では、歓迎会はお開きとしよう!また明日からが気持ちを切り替えて鍛練に取り組むように」
管理人が締めに入った。
「はーい」
全員で返事をして、それぞれ部屋に戻っていった。
あっという間に十一時となっていた。
これからの生活に期待しながら、寝床に入った。
俺「おやすみ」
了斎「ああ、おやすみ」
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